| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-110 (Poster presentation)
鯨類は約5,000万年前に陸上生活から再び水中生活に移行した哺乳類である。進化の歴史において、鯨類は水中生活に適応するために様々な生理的適応を遂げた。その一つが潜水徐脈である。これは潜水時の心拍数が安静時に比べて下がる現象で、鯨類が長く潜れることに関連している。したがって、鯨類の潜水生理を理解するためには、心拍を測定することが重要である。
太地町立くじらの博物館に飼育されているハナゴンドウ(Grampus griseus)、コビレゴンドウ(Globicephala macrorhynchus)、オキゴンドウ(Pseudorca crassidens)、カズハゴンドウ(Peponocephala electra)、ハンドウイルカ(Tursiops truncatus)、マダライルカ(Stenella attenuata)を対象に、クジラが水面で静止した状態で心拍測定を行った。また、ハナゴンドウを対象に、水面で静止した状態から、ひっくり返って仰向けで静止した状態で心拍を測定することで、噴気孔が水没した時の心拍数が安静時と比べて下がるかを検証した。加えて、コビレゴンドウを対象に、クジラが生簀内を自由に遊泳する状態で心拍を測定し、心拍数が潜水時間によってどのように変化するのかを調べた。心拍測定は心拍ロガー(リトルレオナルド社, 日本)を使用し、吸盤を電極とした非侵襲的な測定手法で行った。
6種のハクジラ類において、水面で静止時の心拍を測定することができ、安静時の心拍数が体重と負の相関を示すことが分かった。また、先行研究では、ネズミイルカの徐脈は噴気孔が水没すると起きると示されているが、ハナゴンドウでは、噴気孔が水没することで必ずしも徐脈が起きるわけではないことが分かり、徐脈が噴気孔の水没によって起こる反射ではなく、認知的な制御下にある可能性が考えられた。加えて、自由遊泳下のコビレゴンドウは、水面で静止時の平均心拍数が64拍/分であったのに比べて、30秒未満の短い潜水では60拍/分に下がり、30秒を超える比較的長い潜水では52拍/分まで下がる傾向がみられた。