| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-113 (Poster presentation)
サンゴ礁に生息するニセクロスジギンポは、魚の外部寄生虫を食べることで有名な掃除魚ホンソメワケベラに体型・体色がよく似ている。掃除魚への擬態には、他の魚を騙して鰭をかじり食べるための攻撃擬態と、掃除魚が肉食魚から食べられにくいことを利用した捕食回避の両面が指摘されている。定説では魚の「鰭かじり」が擬態の主な機能であると説明されてきたが、近年の野外観察によると、「鰭かじり」は生活史の中でも非常に限られた戦術であることが分かってきた。それだけでなく、同種他個体と群れを形成し、協力して狩りをするという実態が明らかになりつつある。そこで、本研究では協力行動の進化要因を考察するために、①群れ行動による利益を調査し、②ネットワーク分析を用いて協力関係の可視化を行った。協力行動において、「誰が、誰と協力し、相互作用はどの程度、維持されるのか?」を明らかにすることは、重要な課題である。その結果、ニセクロスジギンポは数個体から十数個体程度の小規模な集団(コミュニティー)を形成し、特定の個体と協力しながら同所的に生息するスズメダイ科魚類の巣を襲撃して卵を捕食するという生態が明らかになった。このような採餌集団は、少なくともスズメダイの産卵期の間は維持されていた。スズメダイの親魚は自身の保護する卵を防衛するために、学習に基づく攻撃行動を示した。攻撃行動は、ニセクロスジギンポに外傷を与えるほど激しく、卵食成功を妨げる制約となっていた。これに対抗するために、ニセクロスジギンポは群れを形成することで、スズメダイからの攻撃リスクを分散し、巣への侵入成功率を上昇させていることが分かった。以上の結果より、脊椎動物で最も精巧な擬態がスズメダイ科魚類に見破られてしまったため、単独では利用できない餌資源を得るために他個体との協力が必要になったと考えられる。