| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-117 (Poster presentation)
空間記憶は、動物が自身の巣穴の位置や餌の隠し場所を記憶する場合、また、危険な場所を避けるといった行動において必要不可欠な認知能力のひとつである。たとえば、マウスやラットなどは、複雑な迷路課題を解決できる高い空間記憶能力を持つことがよく知られている。また、空間記憶を含む認知能力と脳サイズの関係ついて、進化的な観点からも注目されており、より大きな脳の進化は、主に認知能力を高める選択によって引き起こされると考えられている。しかし、これらの研究は主にマウスをはじめとした哺乳類を中心に行なわれており、他の分類群における認知能力と脳サイズとの関係について、実験的に示した例は極めて少ない。この関係について理解を深めるために、哺乳類から系統的に離れた分類群でも検討を行なうことが重要である。そこで本研究では、特に魚 類を用いて、空間記憶能力と相対的な脳サイズの関係について明らかにすることを目的とした。
山梨県水産技術センターで6 世代継代飼育された駿河湾産養殖アユを用いて、迷路実験を行なった。アユは水産重要種で、生態学的特徴のひとつである強い縄張り行動に、空間記憶が関係していると考えられる。2020年の9月から10月までのトレーニング期間に、4つの連続したT字分岐からなる、迷路課題を学習させ、空間認知能力を評価した。各トライアルはビデオカメラで撮影し、迷路課題の解決率、課題解決までの時間、T字分岐において選択を誤った回数を記録した。迷路実験後は、マイクロCT装置を用いて脳サイズの観察を行なった。
迷路実験の結果、トレーニング期間中に、迷路課題の解決率は上昇し、課題解決までの時間は減少した。しかし、分岐において選択を誤った回数については、明瞭な学習の効果を確認できなかった。また、迷路課題を解決する行動には、大きな個体差が観察できた。
加えて発表では、迷路実験の成績と相対脳サイズの関係についても議論したい。