| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-118 (Poster presentation)
採餌行動の最適性の評価に必要な捕食効率などの行動データを,野生動物において詳細に計測することは困難な場合が多い.一方コウモリはエコーロケーション音声のパターンから行動の推定ができる.本研究では採餌理論研究の新たなモデル動物としてコウモリに着目し,採餌行動に関する音響指標の確立を目指した.また音響指標を基に餌場に訪れる個体毎の採餌効率を調べた.観測は北海道大学苫小牧研究林において,モモジロコウモリ(Myotis macrodactylus)を対象とし,餌場とする約20 m四方の池にてマイクロホンアレイによる音響計測と赤外カメラの同時計測を行った.映像から獲物捕獲後のコウモリと獲物の関係を調べた(N=185).獲物を保持していた「hold」が84回(45.5%),獲物が落下した「drop」が56回(30.3%)、獲物の捕獲ができていない「failed」が45回(24.3%)確認され,捕獲を試みた獲物の約半数を捕食していなかった.次に獲物捕獲から次の探索の初めに発する音声までの長さpost buzz pause(PBP)に着目し,捕食の有無との関係を調べた.その結果,映像でholdと判断したケースのPBP(201.6±71.4 ms)が,それ以外のケースより有意に長く(x^2-test, p<0.01),PBPが捕食の有無を示す音響指標になる可能性が示唆された.そこでPBPを基に判断した累積捕食回数と滞在時間から,個体毎の採餌効率を算出したところ,計測日の比較的早い時刻に訪れた個体では採餌効率が悪く,時間経過とともに餌場を訪れた個体の採餌効率が高くなる傾向が見られた.この採餌効率の違いが,探索スキルの違いと関係するか検討した.計測時期で餌場内での探索パターンが異なり,捕獲体験場所に合わせた経路選択の傾向がみられ,餌環境に合わせた採餌を行っていることが示唆された.今後,探索パターンの違いと採餌効率との関係を詳細に調べることで最適採餌に関する新たな知見の獲得が期待できる.本研究はJSPS科研費JP 19K16237,JP 18H03786,16H06542の助成を受けたものです.