| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-122 (Poster presentation)
南極リュツォ・ホルム湾の沿岸域は、夏でも厚い定着氷で覆われており、ここで繁殖するアデリーペンギンは沿岸付近や定着氷上に生じた海氷の割れ目から潜水しオキアミを採食する。海氷下へ潜水するペンギンは、呼吸のためにしばしば元の割れ目まで戻らなくてはならない。このように水中での餌の探索範囲が限定される環境で、ペンギンは餌を獲るためにどのように海氷下 の空間を利用しているのだろうか。本研究では、定着氷下におけるペンギンの詳細な採食行動を明らかにすることを目的に、動物装着型行動記録計を用いて三次元潜水行動を調査した。
野外調査は 2018 年 12 月~2019 年 1 月にリュツォ・ホルム湾にある昭和基地近くの繁殖地で行った。育雛期のペンギン 13 個体に GPS ロガーおよび地磁気加速度ロガーを装着した。得られたデータから海上でのペンギンの潜水場所を特定し、また潜水ごとに水中での三次元潜水経路を再構築した。
調査期間中、繁殖地周辺の海は厚い定着氷(> 1m)で覆われており、ペンギンは歩いて沿岸付近または定着氷上の海氷の割れ目まで移動し、潜水していた。それぞれの潜水場所では、複数の潜水バウト(連続した複数の潜水)が観察された。水中の三次元潜水経路解析から、バウト中の潜水の多くは円を描いて潜水開始地点に戻るような潜水経路を持つことが分かった。また、潜水中の進行方向は特定方向へ集中するのではなく潜水ごとに異なっており、一つのバウトの中でもペンギンは常に同じ餌パッチを追っているのではないと考えられた。さらに、潜水中に到達した最遠点までの水平距離は潜水バウト開始から終了にかけて徐々に長くなった。これらの結果は、ペンギンが連続して採食することによって海氷下の餌パッチが撹乱され、また餌が徐々に枯渇し、潜水バウトが進行するにつれてペンギンが徐々に遠くへ探索範囲を広げたことを示唆している。