| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-123 (Poster presentation)
脊椎動物の遺体は,植物遺体とは対照的に,豊富な栄養・エネルギーを含んでおり,多様な生物種によって直接・間接的に利用されている.遺体分解の速度や最終的な資源配分には,これらの生物の種間相互作用が大きな影響を及ぼしていると考えられる.初期の利用種が後続種の発見や利用の効率を向上させる「促進」もその一つである.本研究では,神奈川県藤沢市石川の日本大学藤沢演習林において,初期遺体利用種のキイロスズメバチVespa simillimaが,後続種である腐肉食性昆虫3種(アオオサムシCarabus insulicola, オオヒラタシデムシEusilpha japonica, センチコガネPhelotrupes auratus)の遺体発見・利用を促進させるのかについて,野外実験と室内実験によって明らかにした.野外実験では,スズメバチが利用したマウスと利用していないマウス間で,腐肉食性昆虫の捕獲個体数に差が生じるか検証した.室内実験では,ハチによる傷が腐肉食性昆虫の採食頻度に影響を与えるのかを検証した.野外実験の結果から,スズメバチが利用したマウスでは,アオオサムシおよびオオヒラタシデムシの捕獲個体数が有意に高くなったことが確認された.室内実験では,遺体の物理的改変は腐肉食性昆虫の採食頻度を向上させることが確認された.これらのことから,キイロスズメバチによる遺体の物理的改変は,遺体から産生される揮発性物質の量を増加させ,他の後続種を誘引しやすくする効果があると考えられた.さらに,物理的改変があることで腐肉食性昆虫の遺体採食の容易性が向上し,遺体分解速度に影響を与えることが考えられた.