| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-127  (Poster presentation)

新型コロナウイルスによる人間活動の変化が野生動物に与える影響
Effects of COVID-19 on wild life via human activities

*上原春香, 遊佐陽一(奈良女子大学)
*Haruka UEHARA, Yoichi YUSA(Nara Women's Univ.)

 新型コロナウイルスの流行を制御するため、世界中でヒトの往来が減少している。日本では2020年4月中旬に全国で緊急事態宣言が発令され、翌年1月にも限定的ではあるが旅行等が制限された。この人間活動の停滞が野生動物に与える影響として、サンフランシスコ都市部のロックダウン前と最中で鳴鳥の鳴き声に変化が現れたことなどが報告されてきた。奈良公園には、ヒトに慣れたニホンジカ Cervus nippon がいることから、毎年多くの観光客が訪れる。ここのシカはヒトと関わりの深い野生動物であり、餌の催促を目的とした独自の学習行動と考えられるおじぎ行動を行う。本研究では、奈良公園での観光客の減少がニホンジカの個体数や行動にどのような影響を与えるのかを調べた。
 2020 - 2021年に奈良公園内のニホンジカを対象に、個体数、おじぎ回数や攻撃性の調査を行い、以前のデータと比較した。観光客の多い地区のシカ個体数は、2015年から2019年にかけて増加傾向にあったが、2020年には減少していた。また、2020年の6月から11月にかけて観光客数は増加傾向にあり、観光客が多い場所ではシカ個体数も増加した。シカせんべい供餌時のおじぎ回数は、観光客数が少なかった2020年6月と7月では2017年の同時期と比較して少なく、観光客数が回復した11月では両年間で違いはなかった。同様に、シカせんべいを焦らして与えない場合にも6月から11月にかけておじぎ行動の増加傾向はみられたが、観光客が再び減少した翌年の1月にかけておじぎ回数が再度減少した。ただしヒトに対する攻撃の有無は、観光客数による変化はみられなかった。2020年のシカの個体数とおじぎ回数の減少は、観光客の減少によりシカせんべいをもらえる機会が減ったために、ヒトへの依存度が低くなったことが原因と考えられる。以上より、新型コロナウイルスはヒトを介して、ニホンジカの生息個体数だけでなく、その行動にも影響を及ぼしていることが明らかになった。


日本生態学会