| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-128 (Poster presentation)
発達した運動器官を持たない微小な生物にとって、餌場から新たな餌場への移動には困難を伴う。線虫や一部の甲虫などはハエやハチなどの高い移動性をもつ生物に付着し、遠くへと運んでもらうことでこの困難を克服していることが知られている。このような行動は便乗行動 (Phoretic behavior) と呼ばれており、線虫類のハエやナメクジへの便乗や一部の甲虫のハチへの便乗、貝虫のトカゲやカエルへの付着など、動物界全域に渡って多様に存在していることがわかっている。線虫の一種であるCaenorhabditis elegansも便乗によって環境中を移動していると考えられている生物であり、他生物への付着のために、“しっぽだけで立ち上がり、上半身をゆらゆらと振る行動(ニクテイション)”を行うことが知られている。
我々のグループは、ニクテイションしているC. elegansが静電場に応答して跳躍することを発見した。線虫類との便乗関係が知られている昆虫は、飛行や歩行によって環境中で帯電しているということが報告されている。したがって、C. elegansは環境中において電場を利用した跳躍によって昆虫に便乗している可能性がある。本研究では、このC. elegansの跳躍行動について、跳躍を誘引する最低電場強度の測定などの物理的な特徴づけを行うとともに、自然界において便乗行動としての機能をもつか評価する実験を行った。実験には環境中での帯電について詳細に調べられているマルハナバチ (Bombus sp.) を使用した。結果、C. elegansがアキノキリンソウ属 (Solidago sp.) の花粉で摩擦されたマルハナバチへ飛びつく様子が撮影された。加えて、花粉との摩擦によってマルハナバチが帯電するといことも、ファラデーケージ法による帯電量の測定によって確認された。これらのことから、自然界において線虫C. elegansが静電場を利用し、昆虫への便乗を実現している可能性が示された。