| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-131 (Poster presentation)
日本各地でキツネが履物を盗む事例が新聞やテレビなどで報道され、海外でも同様の報告がある。本研究では、この行動が成獣による幼獣への給餌行動であるとする仮説に基づき、履物盗みの被害現場である兵庫県丹波市において餌と履物の野外提示実験を行った。仮説から餌(ドックフード)や履物(市販のスリッパ)のサイズ、履物についた匂いの違いにより、幼獣と成獣の間で反応が異なることを予測し、サイズの異なる餌(小型、大型)とサイズの異なる履物(切断して小型化、そのまま)と匂いの異なる履物 (新品、履き古し、餌の匂い付加)をカフェテリア方式で同時提示し、それらに対するキツネの反応をセンサーカメラで記録した。その結果、幼獣、成獣ともに、餌に対してはサイズに関わらず採食行動を示したが、特に成獣では大型の餌を持ち去る行動が多く発生した。履物に対しては、幼獣では採食行動や持ち去る行動が確認されなかったのに対し、成獣では履き古した履物と切断して小型化した履物で採食行動が確認された。さらに成獣では、餌の匂いを付加した履物以外で持ち去る行動が確認され、特に履き古した履物での発生が顕著であった。以上から、幼獣と成獣の間で履物に対する餌の認知に違いがあり(成獣のみで餌と誤認)、さらに餌のサイズや付着した匂いの違いにより成獣の持ち去り行動の発生傾向が異なり(成獣のみが大型の餌を持ち去り、特に履き古した履物を高頻度で持ち去る)、それらのいずれもが、仮説を支持する傾向を示すと判断された。また、地元住民への聞き取りから、キツネが履物を盗む時期は、3月から9月の子育て時期(成獣による幼獣への給餌時期)に集中していた。以上の結果から、キツネが履物を盗むのは、成獣が履き古した履物を餌と誤認し、幼獣へ給餌するために持ち去っていたとする仮説の蓋然性が強く示唆された。