| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-133 (Poster presentation)
昆虫類のもつ体色は多様性に富み、その機能は種によって、捕食者回避や体温調節、種内認識など多岐にわたる。特にトンボ類の多くではその体色が成虫期に変化することが知られている。この変化は成熟に伴って一方向的に起こり、交尾可能個体を認識する際の手がかりとなっている。さらに、体色が可逆的に変化する種が存在し、変化した体色の機能として体温調節や種内認識が挙げられている。ただし、可逆的体色変化の起こる条件は種によって異なるため、すべての種に同様の機能があるとは限らない。水田などを生息地としているホソミオツネントンボは、繁殖活動期間の夜間から朝方にかけては褐色を、日中は青色を呈する温度依存的な体色変化を示す。この変化は雌雄ともに起こるが、本種においてそれぞれの色が果たす役割は明らかになっていない。日中呈している青色には雌雄で多少差がみられるため、ライバルのオスや交尾相手のメスを認識する際の手がかりとなっている可能性がある。そこで本種の体色が縄張り争いや繁殖などの行動に与える影響を明らかにすることを目的とした。野外において、糸で繋いだ生きた個体をモデルとして縄張りオスに提示し、その反応を記録した。モデルは、オス3タイプ(通常・黒塗り・青塗り)とメス4タイプ(通常・褐色型・黒塗り・青塗り)を用いた。黒塗り、青塗り個体はそれぞれ褐色型メス、オスを模して設定した。その結果、縄張りオスは通常オスに対しては攻撃的な反応を、通常メスに対しては性的な反応を示した。ただし褐色型メスに対しては、通常メスよりも性的な反応は少なかった。また縄張りオスは、雌雄にかかわらず、黒塗りした個体には褐色型メスと、青塗りした個体には通常オスと同様の反応を示した。以上より、本種のオスは縄張りに接近した個体の体色に応じて行動を変化させており、体色がライバルと恋人を識別するための手がかりとなっていることが示唆された。