| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-135 (Poster presentation)
一般に外温動物は周囲の温度に依存して代謝速度が大きく変化するため、冬眠への移行などの行動の変動には周囲の温度が大きく寄与している。海棲外温動物も同様であり、水温によって潜水時間や活動性の程度が影響を受けると考えられる。しかし、海棲生物の多くは広い行動圏を持ち、同一個体の長期観測が難しいため、水温が生活様式に与える影響は明らかとなっていない。そこで本研究では、夏季に三陸沿岸に来遊する亜成体アカウミガメCaretta carettaを対象に、2009年から2017年にかけて22個体に衛星発信機(Satellite Relay Data Logger)を装着し、回遊中の個体周囲の水温及び潜水行動をおよそ1年に渡って計測することで、その行動を解析した。アカウミガメは年間を通して日本沿岸(三陸~南西諸島)から東経180度付近までの非常に広い範囲を回遊していた。アカウミガメが実際に経験した表層水温は1年中ほぼ変化せず20.4±2.9℃であった(15.9~25.4℃:5~95パーセンタイル)。一方、回遊域内である岩手、千葉、沖縄沿岸の年間表層水温(定点)は、季節によって変動し、6.6~23.5℃(岩手)、16.6℃~27.4℃(千葉)、22.0~29.2℃(沖縄)であった。周囲の水温が高い時には最大潜水時間が短かった。これらのことから、アカウミガメは水温が大きく変化しないような回遊経路をとることで1年を通して行動の変化を抑えている可能性が示唆された。周辺環境に応じて自身の活動性及び行動を変化させる陸棲の種とは異なり、海洋の外温動物、特に外洋に生息する種は、自身の活動性を保つために周辺の環境温度が一定となるよう移動している可能性がある。これは外洋性の生物が非常に広い範囲を利用する要因の一つであると考えられる。