| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-136 (Poster presentation)
偶蹄類は森林と草原に適応した種が多数いるが、一方で霊長類は森林に依存し草原へ適応した種は少ない。この要因が何かを調べる方法の一つに森林・草原の境界で同所的に生息する偶蹄類と霊長類の比較があるが、大抵は利用する植物が膨大で食物の評価は困難だ。屋久島の山頂部はヤクシマヤダケ(Pseudosasa owatarii: 以下ササと略)が優占する環境で、量的な面でサル・シカの食物になるものはササのみであり、食物の評価が非常にやりやすい。ニホンザル(Macaca fuscata yakui: 以下サルと略)とニホンジカ(Cervus nippon yakushimae: 以下シカと略)は屋久島の全ての標高帯に生息し、ササ原ではサルはササの新芽の髄やタケノコを採食して、シカはササの成熟葉を採食している。本研究は、食物の評価が非常に簡単な屋久島山頂のササ原で仮説「ササに対する採食部位が異なるサルとシカの2種で、ササの空間変異がササ原を利用する2種の哺乳類の分布を決定する。」を検証する。高質で極小の部位を採食するサルは、採食部位の資源量が多い場所に多く出現し、一方、ササの中で低質だが大きい部位を採食するシカは、ササ原で均一に出現すると予測した。
2015/8から2016/11の期間に屋久島山頂部でルートセンサスをおこない糞(サル:N=195、シカ:N=158)を採集し、GPSで位置を記録した。次に、2018/9/6-7に登山道の近傍に約50mの距離を離して計45か所のプロットを作成した。プロットでは隣接して生える10本の稈を選出し、稈長、成熟葉・芽の枚数、成熟葉・芽の大きさを計測した。また、選出した10本の面積も計測した。各プロットの糞発見頻度を説明変数とし、稈の密度、芽の大きさ、森林との距離を応答変数とし、統計解析ソフトRでGLSを用いて解析をおこなった。結果はサル・シカ共に森林からの距離で有意な相関があり、稈の密度、芽の大きさでは有意な相関はなかった。つまり、屋久島山頂部のササ原でサルとシカは森林に近い場所を利用し、ササの資源量の変異は関係がなかった。