| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-137  (Poster presentation)

外来種タケクマバチの営巣過程:巣内集団の個体追跡
Temporal changes in colony members of introduced large carpenter bee, Xylocopa tranquebarorum: frequent relocation in nesting processes

*吉村朋美, 遠藤知二(神戸女学院大学)
*Tomomi YOSHIMURA, Tomoji ENDO(Kobe College)

タケクマバチ(Xylocopa tranquebarorum)は元来台湾、インド、中国に分布し、日本では2006年に愛知県で発見された後、本州で分布を拡大している。本種はその名の通り、枯れた竹に大顎を使って巣穴を開け、節間内部に育室を作り、子を育てる。ほとんどの場合、竹稈には節ごとに連続していくつもの巣が造られる。夏に羽化した成虫は巣内で集団越冬し、春になって営巣活動を開始する。これまでに、おもに台湾での観察から、本種が高い頻度で巣を再利用すること、営巣過程で複数メスが巣内に存在することが知られている。しかし、越冬個体がどのように分散し、どのように巣を継承するのかは明らかになっていない。
そこで、兵庫県川西市の矮性マダケ林に生息するタケクマバチを対象に、巣内で越冬する集団を個体追跡し、活動開始後、巣内の個体構成がどのように変化し、営巣に至るのかを明らかにした。2020年3月中旬から4月中旬にかけて調査地から84巣を持ち帰り、巣内で越冬していた567個体(351メス、216オス)に標識を行い、個体を再び巣に戻したのち、観察巣として調査地に返した。調査では営巣開始前の4月からすでに新成虫が羽化した9月にかけて、巣穴からファイバースコープを挿入して巣内を検査し、中にいる個体を記録した。その結果、営巣開始前に、標識メスのうち92個体(26%)が他巣に入り込んでいた。最終的に観察巣で営巣したことが確認できた12個体のうち、越冬巣をそのまま受け継ぎ営巣したものが5個体、越冬巣以外の古巣に入り込んで営巣したものが7個体だった。再利用された古巣は、巣の劣化や操作の影響もあり、84巣中63巣だった(再利用率75%)。マークの脱落も考慮すると継承率は過小評価と考えられるが、本種の巣の再利用率や継承率が明らかになったのは初めてである。以上より、本調査地では、営巣活動期に個体は頻繁に巣を移動し、集団レベルで古巣を効率よく再利用していることが明らかになった。


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