| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-138  (Poster presentation)

エゾシカの個体数変動とヒグマのエゾシカ利用の関係
Relationship between sika deer population fluctuations and brown bear use of sika deer

*菊地静香(酪農学園大学), 下村芳大(酪農学園大学), 中下留美子(森林総合研究所), 佐藤喜和(酪農学園大学)
*Shizuka KIKUCHI(Rakuno Gakuen Univ.), Yoshihiro SHIMOMURA(Rakuno Gakuen Univ.), Rumiko NAKASHITA(FFPRI), Yoshikazu SATO(Rakuno Gakuen Univ.)

 ヒグマ Ursus arctos は、日本では北海道のみに生息する森林性の大型哺乳類で、植物質中心の雑食性であり、主要採食物に季節変化や年変化がみられるという特徴がある。北海道にはエゾシカ Cervus nippon yesoensis が生息しており、1990年代後半から個体数が大きく増加した後、個体数管理により減少傾向にある。エゾシカ個体数の増減はエゾシカを採食資源として利用するヒグマの食性に影響を及ぼしていると考えられる。そこで本研究では、エゾシカの増減とヒグマの食性の関係を把握するため、ヒグマの糞内容物分析とヒグマの被毛の窒素安定同位体比分析を行った。糞内容物分析にはエゾシカの生息密度が高い北海道東部阿寒白糠地域において1999~2020年に採集されたヒグマの糞を、窒素安定同位体比分析には2014~2020年に採取されたヒグマの被毛を用いた。本研究では特にヒグマによるエゾシカの新生児利用の年変化について検討するため、ヒグマがエゾシカ新生児を利用する5月下旬~7月下旬に排泄されたと判断された糞のみを使用した。分析の結果、ヒグマはエゾシカ個体数の増減に応じて年によりエゾシカの新生児の利用割合を変化させていることが明らかになった。さらに、エゾシカの個体数が増加している期間と減少している期間を比較するとエゾシカの個体数指数は同程度でも、エゾシカの新生児利用割合は一度増加した後の方が高いことから、いったん個体数が増加した後はより選択的にエゾシカ新生子を利用している可能性が示唆された。また窒素安定同位体比分析の結果、エゾシカなどの陸生動物質を利用したときに高い値を示す窒素同位体比は、メスよりオスの方が高い値を示すことが明らかになった。ヒグマの行動圏はオスの方が広いためエゾシカの新生児に出会う確率が高く、また体サイズもオスの方が大きいため栄養要求量が高くなり,より肉食に偏った食性になったためと考えられた。


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