| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-139  (Poster presentation)

性的共食いを受けた雄の交尾行動調節とその適応的意義
Adjustment of mating behavior and its adaptive significance in sexually-cannibalized males

*長田祐基, 高見泰興(神戸大学)
*Yuki NAGATA, Yasuoki TAKAMI(Kobe Univ.)

  性的共食いは雌に栄養的利益をもたらすが、雄の将来の交配機会を奪うため、強い性的対立をもたらす。性的共食いのコストを回避するため、雄は雌を選択したり、慎重にアプローチするなど共食いを避けるような適応を遂げたことがよく知られている。一方、共食いされた雄は、共食いした雌との交尾行動を調節することで、雌の生む卵の受精をめぐる精子競争を有利にする余地がある。先行研究では共食いされた雄の交尾時間の延長や射精量の増加傾向が報告されているが、そのしくみや精子競争における受精成功への寄与については未だ研究が不十分である。
  直翅系昆虫では、頭部神経節が交尾行動を抑制的に制御している。カマキリの性的共食いでは、しばしば雄の頭部が損傷するため、頭部神経節による抑制からの解放が、交尾時間の延長と射精量の増加という交尾行動調節を引き起こす可能性がある。あるいは、共食いに伴う外傷刺激そのものが、交尾行動の変化をもたらす可能性もある。
 そこで本研究は、性的共食いを受けた雄の交尾行動調節における頭部神経節支配からの解放の役割と、雄の交尾行動調節が精子競争において適応的かどうかを明らかにすることを目的として、行動実験を行った。チョウセンカマキリの交尾ペアを4つの処理区(通常、性的共食い、雄頭部切断、雄片前脚切断)に分け、交尾時間、精包付着時間、受精嚢内の精子数を比較した。結果、断頭された雄は性的共食いされた雄と同様に、交尾時間を延長し精子移送量を増加させることが明らかとなった。また、雌に2匹の雄と連続的に交尾させ、通常交尾と性的共食い交尾の間で2匹目の雄が獲得した父性を比較したところ、共食い雄はより多くの父性を獲得することが示された。これらは、共食いされた雄の交尾行動調節の至近要因は頭部神経節支配からの解放であること、結果として生じる交尾行動の変化は精子競争において適応的であることを示唆する。


日本生態学会