| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-140 (Poster presentation)
シリアゲムシ科の昆虫は前翅と後翅の両方を同時に上下させる羽ばたき行動(wing-flashing behavior) を行う。欧米産のシリアゲムシを使用した研究では、雄は婚姻贈呈や雄間闘争において羽ばたき行動を行っていることが示唆されていた (Byers and Thornhill 1983)。しかし、羽ばたき行動が婚姻贈呈における一連の行動の中で、どの場面に生じるのかについては調べられていなかった。そこで本研究では、小動物の死骸を婚姻贈呈に使用するヤマトシリアゲを用いて、婚姻贈呈に関連した求愛行動や雄間闘争の過程で生じる羽ばたき行動について室内実験と野外調査を行った。まず室内実験において婚姻贈呈の状況を再現して観察した結果、婚姻贈呈に使用する餌を占有している雄は、雌に対して羽ばたき行動を行った。それに対し、餌に接近する雌は雄に対して羽ばたき行動を行わなかった。野外で観察された婚姻贈呈においても、室内実験と同様の結果であった。野外で観察された雄間闘争の例では、婚姻贈呈に使用する餌を占有している雄とそれに接近する雄は必ず互いに羽ばたき行動を示した後、雄間闘争に発展した。雄間闘争に勝利した雄は敗北した雄に対して必ず羽ばたき行動をとった。一方、敗北した雄は勝利した雄の周りでサテライト雄となり、勝利した雄に対して羽ばたき行動を示すことはなかった。勝利した雄と敗北した雄を比較した結果、雄間闘争に勝利した雄は雄間闘争に入る前の羽ばたき行動の頻度が敗北した雄より多いことが分かった。つまり、羽ばたき行動の頻度が多い雄ほど雄間闘争に勝利しやすいというこの結果は、羽ばたき行動の頻度が雄間闘争の強さ、または雄の健康状態などに関係している可能性を示唆する。以上の結果に基づいて、ヤマトシリアゲの羽ばたき行動が性選択(同性内性選択と異性間性選択)に果たす役割について考察する。