| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-141  (Poster presentation)

クマゼミの移動パターン ―発音時ほど動くオス、静止するメス― 【B】
Movement of the cicada Cryptotympana facialis: calling males move, but females do not move. 【B】

*藤瀬はる加, 粕谷英一(九州大学)
*Haruka FUJISE, Eiiti KASUYA(Kyushu Univ.)

 繁殖の繁殖の場面での音声信号は性や種のアイデンティティ、送信者の位置などに関する情報を伝え、オスとメスを出会わせる役割のものが多い。音声信号の送信時、オスは発音している位置から移動せず、メスがオスへと移動するのが一般的である。音声信号がよく観察されるセミでも同様に、発音しているオスが動かないことが一般的で、オスの鳴き声の役割は交尾のためのメスの誘引であると考えられている。しかし、セミの中にはオスが移動する少数の種がおり、そのような種ではメスがオスの音声信号に対して信号を出して応答している。日本のセミにはオスが動くことが疑われておりオスのみが発音するクマゼミがいる。クマゼミの鳴き声の主な役割は他のセミ同様、メスの誘引だと考えられてきた。また、オスの移動が報告されているセミとは異なり、クマゼミのメスがオスの鳴き声に信号を出して応答したりオスがメスへ接近したりすることは知られていない。クマゼミではオスやメスの移動が定量的に観察されておらず、鳴き声の機能は未解明である。
 本研究では、野外でクマゼミを標識して個体識別し、個体の再捕獲と行動などの観察を行い、各個体の位置と行動のデータを得た。移動に関して、オスはメスに比べて移動している割合が有意に高かった。クマゼミでオスがメスよりもよく移動することが定量的に示された。発音しているオスは発音していないオスと比べて、移動している割合が有意に高かった。行動に関して、観察時に発音しているオスの方が発音していないオスより歩行や飛翔の割合が有意に高かった。オスが発音しながら移動したり、歩行や飛翔をしたりすることに適応的な意義があることが考えられる。本研究によって、発音しているオスがよく移動しオスに比べてメスが移動しないことが示され、クマゼミのオスの鳴き声の役割がメスの誘引ではない可能性が示唆された。


日本生態学会