| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-142 (Poster presentation)
性的共食いとは、交尾の際に雌が同種の雄を捕食する行動であり、カマキリやクモなどの節足動物でよくみられ、摂食量を増やし繁殖のための栄養資源を得るという、雌の戦略である可能性がある(共食いの量的利益仮説)。しかし、他種ではなく、同種の雄を食べること自体の利益を調べた研究は少ない。同種個体は栄養組成が等しいため、他種に比べてより質の高い餌である可能性がある(共食いの質的利益仮説)。そこで本研究は、性的共食いの量的、質的利益を明らかにすることを目的として、同種雄の摂食が雌の繁殖に及ぼす影響を実験的に調べた。
チョウセンカマキリを材料として、性成熟に至るまでの餌の量と質が雌の多産性におよぼす影響を調べた。羽化2週間後の雌を、非共食い群(コオロギを給餌)と共食い群(雄カマキリを給餌)に分け、多産性の指標である肥満度成長との関係を調べた。加えて、餌の栄養吸収効率に差があるかを検証するため、コオロギ餌と雄カマキリ餌との間で、排泄物量に差があるかを調べた。その結果、肥満度成長は餌の量のみに影響され、餌タイプによる差は見られなかった。また、コオロギ餌は雄カマキリ餌に比べて排泄物量が有意に少なかった。
次に、交尾の際に捕食する餌の量と質が雌の多産性におよぼす影響を調べた。交尾中の雌に、コオロギを給餌、雄カマキリを給餌(性的共食い)、餌を与えないという3つの処理を施し、交尾後は餌を与えずに産卵させた。産まれた卵しょうの質量と、卵の孵化率を多産性の指標として、処理との関係を調べた。その結果、卵しょうの質量は餌の有無に影響されたが、餌のタイプによる差はなかった。また、性的共食いをした雌の卵は孵化率が低い傾向が見られた。
以上の結果から、共食いの量的利益仮説が支持された。一方で質的利益仮説は支持されず、逆に雄カマキリの方が雌カマキリ体内への吸収率が低く質の悪い餌である可能性が示唆された。