| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-143 (Poster presentation)
哺乳類はその名の通り、母乳を与えて子を育てる動物群だ。哺乳類の生活史の初期段階では、母親の母乳を飲む「授乳行動」が生存において不可欠であるため、授乳行動を詳しく知ることは、哺乳類の初期の生活史を理解する上で非常に重要だと考えられる。鯨類は生まれてから成長・繁殖し死ぬまでの一生を水中で過ごす数少ない分類群であるため、彼らの授乳行動を理解することは興味深いテーマである。飼育ハンドウイルカを対象とした先行研究によると、授乳行動に一定のパターンがあることが示唆されてきた。まず、①乳児が母親の腹側に入り込み、ぴったりと寄り添うように泳ぐ。その間、頭頂部で母親の乳腺のあたりを複数回叩く。次に、②乳児が吻部を母親の乳腺に接触させ、母乳を飲む。飼育下では授乳行動を詳細に観察できる一方で、これらは採餌時間やトレーニング、明暗周期を人工的に制御した環境下での行動であるため、授乳行動の実態を理解するためには、自然の環境下での観察も欠かせない。しかし、野生下においてイルカを対象に授乳行動を長期間に渡り調べた研究は少ない。そこで、本研究では、野生のイルカの授乳行動に関する基本的な知見を提供するために、野生のミナミハンドウイルカを対象に、授乳行動の日周性や季節性を調べた。調査は東京都御蔵島村周辺海域にて、2020年7月14日から2020年11月15日までの約4ヶ月間にわたって、計77日間実施した。1回の調査は、各日午前6時00分から午後4時40分までの間の約2時間とした。調査には小型船舶を利用し、出航後、イルカの群れを発見し次第海に入り、群れ内の母子を対象に、動画の撮影と目視での観察を行う、アドリブサンプリングにて授乳行動データを収集した。本発表では、上述した①、②の授乳行動の解析結果を報告する。