| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-146 (Poster presentation)
雄と雌の基本的な違いはその配偶子の大きさと数の違いであり、それに伴って繁殖成功を高める方法も雌雄で異なる。一般的に、雄は雌に選ばれる、雄間競争に勝利するなどして、より多くの雌との配偶機会を得るような戦略で繁殖成功を高める。そのため、雌による選択や雌をめぐる雄間競争が雄の繁殖成功の制限要因となっていると考えられる。しかし、そういった制限を無くした場合、雄はどれだけ多くの雌と配偶することができるのであろうか? ダニ目ハダニ科に属するナミハダニTetranychus urticaeは、体長1㎜未満の植食性の節足動物であり、世界各国で農業害虫として問題になっている汎存種である。雌雄どちらも複数の相手と交尾するが、交尾が正常であった場合、雌は最初に交尾した雄の精子だけを生涯にわたって受精に使うため、処女雌をめぐる激しい雄間競争や雄による雌の交尾前ガードがみられる。そこで本研究では、雄間競争がない環境下で、ナミハダニの雄は何匹の雌と配偶可能かを調査した。その結果、3時間での雄1匹あたりの平均交尾雌数は約13匹であり、最大交尾雌数は25匹であった。本種は半倍数体であり、受精卵から雌が、未受精卵から雄が発育するため、精子輸送の有無は娘の存在で確認可能である。そのため、子の雌比でもって精子輸送の有無を確認したところ、子の雌比は交尾雌数をおうごとに減少した。また、交尾雌数が12匹を超えると雌の子がほとんど見られなくなった。したがって、短時間に雄が多くの雌と交尾すると、送り込む精子量は減少し、雄は精子が枯渇してもなお交尾を続けていたと考えられた。そのため、精子生産も雄の繁殖成功の制限要因となると考えられた。今後は、枯渇した精子の回復にどれだけの時間を要するのか、また、精子が枯渇しても交尾を続ける究極要因や至近要因について明らかにしていきたい。