| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-155  (Poster presentation)

マンリョウの種内変異の系統地理的解析
phylogenetic analysis of intraspecies difference in A crenata

*野依航(京都大学), 中村直人(京都大学), 井鷺裕司(京都大学), 田金秀一郎(鹿児島大学), 北島薫(京都大学)
*Wataru NOYORI(Kyoto Univ.), Naoto NAKAMURA(Kyoto Univ.), Yuji ISAGI(Kyoto Univ.), Shuichiro TAGANE(Kagoshima Univ.), Kaoru KITAJIMA(Kyoto Univ.)

 日本を含めた東アジア原産のマンリョウ(Ardisia crenata)は米国では侵略的外来種に指定される。フロリダの侵略集団個体は、宮崎の常緑広葉樹林に自生する野生個体と葉の形態や樹形が異なることが報告されているが、日本の栽培個体や本州の自生個体には形態的に類似する。本研究はマンリョウの葉の形質の地理的分布の解析により、これまで未解明であった日本国内の地域的な集団間の形態的分化および栽培品種の起源についての理解を深めることをめざした。
 本研究では京都大学総合研究博物館、鹿児島大学総合研究博物館に保管される関東から沖縄までの日本国内で採取されたマンリョウの植物標本計176点を使用した。撮影もしくはスキャンした各標本から、測定に適した1~4枚の葉を選び、画像解析ソフトImageJを用いて葉面積、長さ、幅、葉柄の長さを計測した。また、標本採取位置をGoogleEarthProを用いて緯度経度の情報へと変換し、QGISと気候メッシュデータを用いて標本採取地の気候データを推定した。これにより得られたデータから測定形質について温かさの指数、降水量と日照時間について主成分分析を行い、葉の形質と気象条件の関連を調べた。
 三形質のうち、長さと幅の比率(縦横比)については緯度との間に有意な負の相関が見られたが、葉面積と葉柄長は緯度と有意な相関はをしなかった。この結果は、マンリョウの北方への分布拡大において、葉を幅広くする適応をしたこと、さらに、栽培品種は北方型の地域集団由来であることを示唆する。また、葉の縦横比と気候要因の主成分分析では、温かさの指数と日照時間および縦横比が貢献する第一軸が変異の49%を年間降水量が貢献する第二軸が変異の26.8%を説明した。従って、日照時間と温かさの指数がマンリョウの葉の縦横比の日本国内での変異に最も高い相関を持つ気候要因であった。


日本生態学会