| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-156 (Poster presentation)
地球上の全維管束植物の約10%を占める維管束着生植物(以下,着生植物)は,気候変動や土地利用の変化に脆弱であるとされている.着生植物の種多様性は,降水量が多い場所や湿度が高い場所といった“水の利用可能性”が高い場所で高いことが報告されている.気候変動が着生植物に及ぼす影響を明らかにするためには,“水の利用可能性”が着生植物の分布に及ぼす影響の大きさや,その傾度上での分布の閾値を明らかにする必要がある.また,着生植物の種数と水の利用可能性との関係に関する先行研究では,降水量が異なる場所間での着生植物の種数の比較が多い.しかし着生植物の種数は,降水量が異ならない狭いスケール,例えば尾根―谷傾度においても,空中湿度勾配によって差が生じる可能性がある.本研究では,高知県の常緑広葉樹と温帯性針葉樹が混交する自然林が残存する小集水域を対象に,空中湿度を反映する尾根-谷傾度上での着生植物の分布特性を明らかにすることを目的に調査を行った.着生シダ4種(シノブ,マメヅタ,ヒメノキシノブ,イワヤナギシダ),着生ラン4種(ムギラン,マメヅタラン,セッコク,オサラン)について,尾根-谷傾度上での分布と空中湿度との関係を解析した結果,着生植物の出現確率は,空中湿度が高い谷底から空中湿度が低い尾根にかけて低下した.このことから,小集水域内における着生植物の分布が,低い湿度によって制限される可能性が示唆された.しかし,その程度は種によって異なり,小集水域内全域に分布する種と,空中湿度が高い谷底に偏って分布する種が確認された.着生植物の種数は,空中湿度が高い谷から空中湿度が低い尾根にかけて減少した.このことから,降水量が異ならない狭いスケールにおいても,水の利用可能性が着生植物の種数に影響する可能性が示唆された.