| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-157 (Poster presentation)
温帯域の山地では、地球温暖化によって等温線の上昇や開葉の早期化に伴う晩霜害の増加が予想される。そのため、標高や晩霜頻度の傾度に沿った樹木集団における開葉時期の集団間・集団内変異の生成に関わる要因とそのメカニズムの解明は、気候変動に対する当該形質の応答を予測する上で不可欠である。
落葉高木種ブナの開葉時期には集団間変異があり、青森県八甲田連峰では高標高域や晩霜頻度の高い地点に生育する集団ほど開葉日が遅い傾向が認められている。ブナの開葉時期には集団内変異も認められ、特に晩霜頻度の高い地点に生育する集団で変異が大きい。このような集団間・集団内変異をもたらす可能性がある至近要因の1つとして、開葉時期の遅延をもたらす春季の凍結低温が挙げられる。そこで、本研究では、八甲田連峰において凍結低温が開葉時期に及ぼす影響と、凍結低温に対する開葉時期の可塑性を規定すると考えられる冬芽内における分裂組織の休眠解除・活動再開時期の集団間・集団内変異の実態を調査した。まず、春季の凍結低温が開葉時期に及ぼす影響を明らかにするために、切枝を用いた低温曝露実験を行った。2月~5月にわたって切枝を4回採取し、冷凍庫内で3種類の低温(0℃、-5℃、-10℃)に曝露させた後、圃場に置いて開芽日と気温の観測を行った。その結果、いずれの集団においても晩冬期の低温曝露による開芽日の変化は認められなかったが、早春期になるとより低い温度に曝露された切枝ほど開芽日が遅くなる傾向が認められ、凍結低温によって開芽時期が可塑的に変化することが明らかとなった。このような開芽時期の可塑性を示す時期には集団間・集団内変異があり、開芽時期が早い集団・個体の方がより早い時期から凍結低温に対する可塑性を示していた。また、休眠期または休眠解除後の開芽初期段階に特異的に発現する6遺伝子の相対発現量の季節変化を定量的PCRにより分析した結果についても紹介する。