| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-158 (Poster presentation)
ネジバナは、らせん形の花序構造をもつラン科の植物である。花序のらせん方向に右巻きと左巻きがあり(巻き型多型)、それらは1:1の比率で出現することが知られている。先行研究の中で1:1の巻き型比率は、巻き型のランダムな発現や、系統的制約によるものと考えられることもあった。しかし、本研究では1:1の巻き型比率を維持する何らかのメカニズムが存在している可能性を念頭に、このメカニズムを検証するために巻き型多型の分布様式の調査・解析を行った。
岐阜市と彦根市の2地点の調査地で、ネジバナの位置と巻き型を調べた。次いで、巻き型の分布様式の評価のために、それぞれの調査地で記録されたネジバナの全個体について、近い順に選んだ合計n本からなる小集団の巻き型比率を求めた。この巻き型比率の標準偏差を計算し、分布様式を示す指標とした。この標準偏差は、左右の巻き型が調査地内のどこでも均質に混じり合っていれば小さく、場所によって偏在していれば大きくなると期待される。均質化・偏在化が生じているスケールを明らかにするため、小集団の大きさnを変えて(n = 1, 2, … 9, 10, 20, … 50)、それぞれ標準偏差を求めた。実測した巻き型比率の標準偏差を評価するために、巻き型がランダムに分布する場合の標準偏差の確率密度分布と比較した。この確率密度分布は、実測データのうち巻き型だけをランダムに入れ替えることにより求めた。解析の結果、岐阜市では近傍の2~3株の間で、彦根市では5株の間で、巻き型多型が均質化する傾向が認められた。このことから、ネジバナ個体群には、近傍の個体間で巻き型比が1:1になるような何らかの作用が存在し、この作用が巻き型多型を維持していることが示唆された。