| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-161 (Poster presentation)
小笠原諸島には適応放散によって生じたとされるトベラ属の固有4種[コバトベラ・オオミトベラ・ハハジマトベラ・シロトベラ(以下コバ・オオミ・ハハ・シロとする)]が生育する。RAD-seqによる系統解析では,固有4種は近縁な単系統群であり,コバとハハ,オオミとシロがそれぞれ姉妹種であるとわかった。各種は,コバが父島列島の乾性低木林(年間を通して強力な直射日光を受け,乾燥しやすい環境)を,オオミが陰湿な林内を,ハハが母島列島のやや暗い林を,シロが両列島の明るい林を好むように,自生地の環境条件が異なるとされる。本研究では光合成特性に着目し各種の形質が生育地の光条件とどのように関係しているのかを検証した。
調査項目は,自生地における1年間の正午のPAR(植物が光合成に使える正味の光量)値・葉身サイズ・葉内構造・クロロフィル(Chl)a/b比とした。調査の結果,まず正午における年間PARの平均値はコバで889となった一方で,オオミでは114となった。コバの葉は最も小さく厚いことが示された。これは本種が乾性低木林で生育するために適した形態を獲得した結果と考えられた。Chl a/b比では,コバで最大値が得られたのに対し,オオミでは最低値が得られた。これはChl a/b比が明るい環境に生育する種で値が大きくなり,暗い環境に生育する種では低くなる傾向に合致している。また2種の中間的な環境に生育するとされるシロとハハは,今回の調査項目においてもおおよそ中間的な形質値を示した。以上のことから,空間スケールの小さい島嶼において,光強度という環境軸に沿った光合成特性の多様化が生じ,固有4種の共存を可能にしていることが示唆された。