| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-162  (Poster presentation)

後氷期の気候温暖化が引き起こした分布末端集団の孤立化―ゼンテイカ群での事例―
Genetic isolation of the rear-edge populations of Hemerocallis middendorffii caused by climate warming during the post glacial period.

*増田和俊(京都大学), 瀬戸口浩彰(京都大学), 長澤耕樹(京都大学), 沢和浩(天童市), 丹後亜興(隠岐郡海士町), 坪井勇人(白馬五竜高山植物園), 福本繁(ABCプロジェクト), 堀江健二(旭川市北邦野草園), 石原正恵(京都大学), 阪口翔太(京都大学)
*Kazutoshi MASUDA(Kyoto Univ.), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto Univ.), Koki NAGASAWA(Kyoto Univ.), Kazuhiro SAWA(Tendou City), Tsuguoki TANGO(Ama Town, Oki District), Hayato TSUBOI(Hakubagoryu Alp. Botan. Garden), Shigeru FUKUMOTO(ABCproject), Kenji HORIE(Asahikawa City Plants Garden), Masae ISHIHARA(Kyoto Univ.), Syota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.)

 第四紀の氷期―間氷期を繰り返す気候変動は植物の集団動態に大きな影響を与えてきた.集団動態の歴史は遺伝的多様性と密接に関わっており,現在の遺伝的多様性には特に最終氷期から現在までの気候変動の影響が強く反映されている.温帯性植物の多くは最終氷期に分布南方地域で逃避地を形成していたため,現在の分布末端集団で高い遺伝的多様性を示す傾向がある.一方で,後氷期の気候温暖化によって南方地域の分布が縮小し,集団の遺伝的多様性が低下することも考えられる.従って,氷期と間氷期のどちらが集団動態に強く影響したのかを調べることが重要である。
 ゼンテイカ群は,日本では北海道~本州中央部に分布する温帯性多年生草本である.分布の北部~中央部では地理的に連続した大集団を形成するが,分布末端地域では地理的に隔絶した小集団が遺存的に点在しており,分布の連続性に地理的な違いがある。本研究ではゼンテイカ群の遺伝分析を行い,氷期と間氷期の古分布確率との比較相関解析を行うことで,気候変動が分布末端集団に与えた影響を明らかにすることを目的とした.
 41集団737個体についてSSR分析を行った結果,6つの地域集団の存在が明らかになった.北海道~中部地方は広い地域を占める4つの地域集団から成り,これらは各集団内の遺伝的多様性が高く,地域内での遺伝的分化が浅いことが分かった.一方,分布末端集団の京都と隠岐は独自の遺伝的組成に分化しており,各集団内の遺伝的多様性が低かった.集団動態解析の結果,特に分布末端集団で後氷期に有効集団サイズが大きく減少し,遺伝的浮動の影響で分化が進んだことが示唆された.また生態ニッチモデリングから推定された6千年前の最温暖期における古分布が,集団の遺伝的多様性を規定していた.
 以上の結果から,後氷期の気候温暖化による分布断片化がゼンテイカの分布南西端集団における集団動態・遺伝的多様性に強く影響したことが示された.


日本生態学会