| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-163 (Poster presentation)
植物の展葉・開花・結実の季節的変化(フェノロジー)は、陸上生態系の生産量の変化・種の分散などに深く関連する性質として、1960年代から生態学者の注目を集めてきた。最近ではさらに、地球温暖化の影響を評価する指標として、フェノロジー研究が注目されている。本研究では、暖温帯照葉樹林と熱帯山地林の両者のフェノロジーを統一的に理解するために、ベトナム南部の熱帯山地林において展葉・開花・結実を記録し、照葉樹林に見られるパターンとの相違点を調べた。この地域では暖温帯と異なり冬がなく、月平均気温は年間を通して変化が小さい(16.7–20.3ºC)。一方、月降水量は雨季(4–10月)と乾季(11–3月)で大きく変化する(10–281mm)。降水量の季節変化の下でいつ展葉・開花・結実が起きるかを調べるために、5地点(標高1660–1920m)に1000–2500m2の調査区を設置し、高さ4m以上の全樹木を標識し、MIG-seq法による分子系統解析を行い、タイプ標本と比較して種を同定した。5調査区の個体数上位の種(計91種500個体)で、展葉・開花・結実の有無を3ヶ月ごとに記録した。5調査区全体に出現した3859個体のうち、ブナ科が11.6%、クスノキ科が10.7%であった。照葉樹林にも多く分布するブナ科とクスノキ科は、調査区全体でそれぞれ42種、60種が確認され、日本のブナ科とクスノキ科の総種数22種と31種を上回った。観察対象91種すべてが4月(雨季の始まり)に展葉したが、開花した種は70種(76.9%)にとどまった。また、クスノキ科では観察対象10種中9種が乾季を中心に開花したが、ブナ科の開花は11種中4種にとどまり、特定の季節に集中していなかった。これらの結果より、暖温帯照葉樹林に見られる春の展葉は、熱帯山地林における雨季の始まりの展葉から派生したことが示唆された。また、熱帯山地林では毎年開花していない種が多かったため、照葉樹林の一部の種に見られる「成り年」がより一般的であると考えられた。