| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-164 (Poster presentation)
小笠原諸島西之島は日本本土の南約1000km、小笠原諸島父島の西約130kmに位置し、1973年の火山活動により新島として認識された絶海の孤島である。一昨年の学術調査で、この新島では幾つかの生物種の生息が確認されている。植物相はオヒシバ、スベリヒ等の草本の生育が確認されているが、侵入経路は不明である。西之島周辺では多くの海鳥の生息、繁殖が確認されており、植物の分布拡大に貢献しているのではないかと注目されている。しかし、遺伝学的に海鳥による種子散布が確認された例はない。
そこで本研究では遺伝学的手法を用いて西之島に生息しているオヒシバの起源を探索することを目的とした。研究材料として西之島、小笠原諸島、伊豆諸島、日本本土などでオヒシバを267サンプル収集した。本研究では西之島の種子散布の起源集団を特定するために母性遺伝する葉緑体DNA(cpDNA)を調査した。cpDNAの42領域のスクリーニングを行い、多型が得られた複数領域を対象に、収集した全サンプルの塩基配列を取得し、遺伝的多様性、cpDNAハプロタイプを決定した。
多型スクリーニングの結果、9領域で多型性が確認された。多様性解析の結果、日本本土集団において比較的高い遺伝的多様性が確認された。一方で、西之島で検出されたハプロタイプは近隣の父島などでは確認されなかった。その原因として鳥類による遠距離からの種子散布が考えられる。鳥類に泥と一緒に微小な種子が付着した場合、長距離移動する例がある(黒田 1967; 齋藤 1976)。オヒシバの種子が鳥類の移動に伴い、遠距離から運ばれた可能性が考えられた。今回の結果からは西之島のオヒシバ集団の起源を推定することはできなかった。しかし,西之島のオヒシバのハプロタイプは小笠原諸島の父島とは異なり、日本本土等の遠距離から運ばれてきた可能性が示唆された。今後の研究では海外の個体を増やし、また、核ゲノムの多型情報も加えることで、西之島のオヒシバの起源推定も行う予定である。