| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-167  (Poster presentation)

ツユクサの花形質の集団間変異は送粉環境への適応か?:野外調査と栽培実験による検証
Inter population floral variation caused by adaptation to local pollination environment.

*増田佳奈(神戸大), 邑上夏菜(神戸大), 勝原光希(岡山大), 宮崎祐子(岡山大), 丑丸敦史(神戸大)
*Kana MASUDA(Kobe Univ.), Kana MURAKAMI(Kobe Univ.), Koki KATSUHARA(Okayama Univ.), Yuko MIYAZAKI(Okayama Univ.), Atushi USHIMARU(Kobe Univ.)

被子植物では、他殖と自殖、またその両方を行う混殖など、非常に多様な繁殖様式が生育環境に依存した形で進化している。混殖種は生育地の送粉者環境に応じて、一般的に送粉者が多く訪花する環境下では他殖を、送粉者制限下では自殖を行う柔軟な繁殖様式であることが知られている。例えば、都市域など送粉者制限が常にみられる地域では、個体の自殖率が高くなること、自殖率の増加に伴って自殖を促進する花形質の進化が起きうることが示唆されている。そのため混殖種であっても、他殖も行える集団と全く行えない集団間では、花形質に変異がみられる可能性があるが、この予測を検証した研究は未だ非常に限られている。
一年生草本であるツユクサ(Commelina communis)は、送粉者の少ない都市域から送粉者の多い里山域まで多様な環境に分布しており、自殖と他殖の両方を通じて種子生産を行う。先行研究から、ツユクサにおいて、訪花頻度の低い集団では自殖に適した花形質がみられることがわかっている。本研究では、異なる送粉環境に分布するツユクサ個体群を対象に、野外での開花数や送粉者の訪花頻度、花形質および集団遺伝構造を調べた。さらに、温室における同一栽培環境下での栽培実験において花形質の測定を行い、野外でみられる花形質の集団間変異が遺伝的基盤を持つのか、可塑的な形質反応であるのかについて検証した。
本研究の結果、個花あたりの訪花頻度が高い野外集団において、雌雄離熟の程度が大きいことが明らかになった。また、温室栽培条件下においても、野外と同様の雌雄離熟の程度の集団間変異がみられ、野外の形質集団間変異は遺伝的基盤を持つことが示唆された。本発表では、表現型レベルでの集団間の遺伝的分化Qstと中立な分子マーカーに基づく集団間の遺伝的分化Fstの比較から、多様な環境でみられるツユクサの花形質の集団間変異が送粉環境への適応なのか議論する。


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