| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-168 (Poster presentation)
被食型の種子散布を行う植物にとっての種子散布者となる動物は、果実の存在や成熟度を認識する要素の一つとして、果実の色を用いるという事が知られている。そのため、果実の色は繁殖成功や集団の維持を左右する重要な形質である。 適応的な果実の色に関わる要因を探るため、植物の 生育地の緯度、階層(高木/低木)、系統関係に注目した研究が行われているが、それらは果実の色をヒトの可視光に基づいて評価したものが多い。一方で、主な種子散布者となる鳥類は果実を認知する際、ヒトが感知することができない紫外線領域の波長を利用することが報告されている(Siitari et al., 1999)。そのため、適応的な果実の色に関わる要因を探るには、鳥類の可視光である紫外線領域も含めた色の評価による考察が必要である。
そこで本研究では、日本に生育する被食散布型樹木113種について、分光光度計を用いて紫外線領域も含めた果実の反射スペクトルを数値化した。波長を(300~400) ㎚(UV)、(400~500) ㎚(青)、(500~600) ㎚(緑)、(600~700) ㎚(赤)の4領域に分け、全体の反射量に対する各領域の反射率を求めた。図鑑の表記に基づいた果実の色の評価と今回得られた4領域の数値を比較すると、同色に分類されている果実の中でも紫外線領域の反射率は大きくばらついた。それらは主に黒や黒紫と記載されていた果実で見られ、bloomと呼ばれる果実表面の蝋物質が関与していた。
次に、計測した果実の反射スペクトルについて系統シグナルの有無を解析した。
4つの波長領域についてそれぞれ解析すると、4領域全てで系統シグナルがあり、近縁種間で果実の反射スペクトルは類似していた。更に、得られた各領域の反射率から、果実の色が生育環境により左右される可能性について考察した。その結果、樹高の高い種ほど果実の紫外線反射率が大きい傾向があり、これは果実が強光に晒される高木ほど鳥類へのシグナルとして紫外線反射を利用するためと考えられた。