| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-169  (Poster presentation)

地際で咲く植物の繁殖生態 -カンアオイ属2種の受粉様式、交配システム、空間遺伝構造
Reproductive ecology of herbs blooming near the ground; pollination, mating systems, and fine-scale spatial genetic structures of two Asarum species

*高橋大樹(京都大学), 阪口翔太(京都大学), 寺峰孜(高知学園短期大学), 瀬戸口浩彰(京都大学)
*Daiki TAKAHASHI(Kyoto Univ.), Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.), Tsutomu TERAMINE(Kochi Gakuen College), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto Univ.)

ウマノスズクサ科カンアオイ属は主に暖温帯林の林床に生育する常緑多年草であり、多くの種は壺状の暗褐色の花を地際で咲かせる。先行研究から、カンアオイ属植物は訪花昆虫の訪花頻度は著しく低いが、高い遺伝的多様性を示すことが報告されている。利用できる訪花者相が乏しい薄暗い林床において、カンアオイ属植物がどのように繁殖を行い、集団や遺伝的多様性を維持しているのかは明らかになっていない。本研究ではオナガカンアオイ(オナガ)とトサノアオイ(トサ)を対象に、複数年の野外調査と分子生態学的解析からカンアオイ属植物の繁殖生態を推定した。3年間の観察よりヨコエビ類やトビムシ類などの地上徘徊性動物やハエ類の訪花が確認されたが、訪花頻度は1花1時間あたり0.05匹以下と非常に低かった。一方で結果率は平均20%程度と比較的高かった。4年間にわたって野外種子を回収し親子解析を行ったところ、他殖の割合は高く15mを超える長距離の花粉流動も検出された。一方で集団内の強い空間遺伝構造が検出され、種子の分散は制限されていることが示唆された。交配実験の結果、両種とも自家和合性を示したが、近交係数の値は実生世代のほうが親世代よりも高い傾向があり、発芽以降の段階で近交弱勢が発現していると考えらえた。また萼裂片が著しく伸長しているオナガはトサと比べて、ハエ類の訪花頻度と他殖率が高かった。以上より、カンアオイ属植物は薄暗い林床において移動性の高いハエ類等を誘引することで活発な花粉流動を行っていると考えられる。また訪花イベントは少ないが、長い開花期間や自家和合性により繁殖機会を増加させているのであろう。更に近交弱勢や長寿命性も遺伝的多様性の維持に関係していると考えられる。こうした繁殖特性によって、カンアオイ属植物は種子の分散制限によって強い空間遺伝構造を示しながらも、集団を維持していると考えらえる。


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