| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-170 (Poster presentation)
被子植物で一個体内に両性花と雄花を生産するものは雄性両全性同株と呼ばれ,矮小化した雌器官を持つ雄花の方が生産に要するコストは少ない場合が多い.そのため雄花は,開花期の後半や花序の末端など資源が制限されている場合に生産される傾向にあるが,花の性決定と資源制限との直接的な関係については不明である.雄性両全性同株ケツユクサ(Commelina communis f. ciliata)は,花序内で1番目に咲く花は必ず両性であり,これが結実に成功した場合は2番目に咲く花は雄,失敗した場合は両性を示す.これは,結実に成功した花へ多く資源投資を行う必要があるために,2番目の花で利用できる資源が制限されることへの適応であると考えられる.また,2番目の花の性は,1番目の花の開花後24時間以内に決定されることがわかっている.そこで本研究では, 1番目の花の開花後24時間以内の花序内の資源動態を調べることで,資源制限と雄花誘導の関係性を明らかにすることを目的とした.
野外より採取したケツユクサを栽培し,無作為に選んだ花序の1番目の両性花に対し,結実成功,失敗のどちらか処理を施し,2番目の花の性を操作した.そこから,2番目の花の性が決まる24時間以内に結実に対してどのくらいの資源が配分されるのかを調べるために1番目の花の子房を,さらに,その資源配分に伴い花序内の資源濃度が減少するのかを調べるために総苞,花柄,2番目の花のつぼみを採取し,窒素とリンの濃度を測定した.その結果,1番目の花の開花後24時間以内に,結実成功に伴う子房への資源配分は確認された一方で,それに付随するような花序内の資源濃度の減少はみられなかった.よって,ケツユクサ花序の2番目の花の雄花誘導は花序内の資源濃度の減少を直接的なシグナルとするのではない,別の性決定機構の存在が示唆された.雄性両全性同株では,将来起こり得る資源制限を見越した最適な花への資源配分を実現している可能性が考えられる.