| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-173  (Poster presentation)

多様な都市生育地は一年生草本の表現型の集団間変異を促進するか? 【B】
Do diverse urban habitats promote inter-population phenotypic variation in annual plant species? 【B】

*中田泰地, 増田佳奈, 佐藤秋周, 川上風馬, 丑丸敦史(神戸大学)
*Taichi NAKATA, Kana MASUDA, Akinari SATOH, Fuma KAWAKAMI, Atushi USHIMARU(Kobe Univ.)

 都市化は、都市周辺の人工地拡大による植物の生育地の縮小・断片化を引き起こすだけでなく、都市に残存する生育地においても近隣の(半)自然生態系に比べ、気温・CO₂濃度の上昇や水・土壌の富栄養化といった環境要因の変化を生じさせる。都市では、生育地環境の変化により個体数の激減や局所絶滅が引き起こされている植物種も多く、植物多様性は減少している。一方、環境変化の見られる都市域にも多く生育し、都市集団特有の表現形質のみられる種も存在し、都市への適応や可塑的応答の存在が示唆されている。
 大都市が成立するアジア地域の平野部では、都市化に伴う水田生態系の縮小・断片化が進み、残存水田に加え、新たに創出された都市公園や花壇、路傍における植樹帯等の緑地環境が水田性植物の代替生育地として機能している。これらの代替生育地の多様性は、各生育地の環境への植物の異なる適応をもたらしうるが、アジアの大都市圏における多様な適応進化の実態は明らかになっていない。
 本研究では、都市域の水田畦畔や公園緑地に分布する一年生草本ツユクサを対象に、「異なる都市生育地への異なる遺伝的適応がみられるか」という問いをたて、その検証を目的とした。具体的には、阪神地域の都市域及び里山域の水田畦畔と都市公園内緑地内に生育するツユクサ実生を採取し、実験温室栽培園で生活史形質(植物高、葉数、葉面積、SPAD値)の測定を行い、表現形質の差が生育地の違いに依存するのかを検証した。
 調査の結果、植物高とSPAD値は、都市-里山環境間で表現形質に違いはみられなかったが、葉数と葉面積は、都市生育地間で表現形質が異なり、生育地の違いが異なる適応をもたらす可能性が示唆された。今後、野外での都市-里山集団の表現形質の比較とともに、都市特有の形質変異や形質発現の環境依存性を明らかにする必要がある。


日本生態学会