| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-174  (Poster presentation)

コケモモの遺伝的多様性~風衝ハイマツ群落が果たす役割
Genetic diversity of Vaccinium vitis-idaea along with the development of Pinus pumila patchy shrubs

*杉本健介(日大・文理), 小泉敬彦(日大・文理), 居駒すみれ(日大・文理), 松尾歩(東北大・農), 陶山佳久(東北大・農), 井上みずき(日大・文理)
*Kensuke SUGIMOTO(Col. Hum. & Sci., Nihon Univ.), Takahiko KOIZUMI(Col. Hum. & Sci., Nihon Univ.), Sumire IKOMA(Col. Hum. & Sci., Nihon Univ.), Ayumi MATSUO(Grad.Agri.,Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Grad.Agri.,Tohoku Univ.), Mizuki INOUE(Col. Hum. & Sci., Nihon Univ.)

 ナースプラントとは、山地や乾燥地などの過酷な環境下で植物が定着、成長する手助けと なる植物のことである。ナースプラント群落のサイズが大きくなると群落下に与える物理的ストレスの緩衝作用が増大しナースプラント群落下の他の植物の実生定着率が上昇する場合が知られている。コケモモ(Vaccinium vitis-idaea)は種子繁殖とともに匍匐枝によるクローン成長をする植物であり、周北極の寒帯の湿地帯で大規模な個体群として生育している。一方で、日本では氷期の遺存種として高山などで局所的にハイマツ(Pinus pumila)群落下で小規模な個体群として生育している。ハイマツ群落は強風や強光を防ぎコケモモが生育しやすい環境を作り出しており、ナースプラントとして機能していると考えられる。ハイマツ群落の拡大にともない、コケモモ個体群も発達しているが、それがクローン成長によるのか種子繁殖による加入によるものなのかは明らかではない。本研究では実生定着の可能性を明らかにすることを目的として、小規模なハイマツ群落のサイズ拡大に伴い、その群落下で生育するコケモモの遺伝的多様性が変化するのかを調べた。  乗鞍岳稜線においてサイズの異なる14ハイマツ群落直下のコケモモ個体群の葉(305サンプル)を格子点状に採集した。採取したサンプルから改変CTAB法によってDNA抽出をし、MIG-seq法を用いてSNPsを利用した遺伝的解析を行った。  SNP情報が十分に得られたサンプルのうち、遺伝子の一致率が90%以上のものを同一ジェネットとみなした場合、209サンプルから14ジェネットが識別された。ハイマツの群落サイズとコケモモの遺伝的多様性の間には有意な正の相関(P < 0.05)が認められたことから、ハイマツ群落下のコケモモ個体群はクローン成長だけで広がっているのではなく、有性繁殖による実生の定着も寄与している可能性が示唆された。


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