| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-178 (Poster presentation)
植物の花の向きは種類によって異なる。花の向きは、訪花者の行動・雨等の気象などにより影響されることが知られているが、それらの要因を包括的に扱った研究は少ない。そこで本研究では花の向きを決める要因を調べるため、複数の植物を対象に様々な要因の影響を個別に調べた。
2020年にカタクリ(下向き開花)・ニッコウキスゲ(水平向き開花)・コバギボウシ(斜め下向き開花)について自然環境下で花の向きを上・水平・下方向に変える処理を行った。処理を施した花に来る訪花者を観察し、開花後の葯から残花粉量を測定し、また結実後に種子を回収し結実率を求めた。
その結果、カタクリでは訪花者の訪花頻度は非常に低く、上・水平方向に変えた花で残花粉数は小さくなり結実率は上がった。ニッコウキスゲでは処理間で訪花頻度に差は無く、残花粉数・結実率についても差は見られなかった。コバギボウシでは上・水平方向に変えた花でハチ(マルハナバチを除く)の訪花頻度が小さくなり、上方向に変えた花で残花粉数は大きくなり結実率は下がった。
これらの結果から、カタクリにおいて訪花者の存在は花の向きを決める要因ではなく、雨による花粉流出を免れることが雄成功に繋がり、結実率が雌成功に直結することを考慮すると、雄成功と雌成功の間でトレードオフが起きておりカタクリ本来の花の向きは雄成功を高めるものだと考えられる。ニッコウキスゲにおいて訪花者の存在は花の向きを決める要因ではないと考えられる。またコバギボウシにおいては、上向きに変えた花でハチの訪花頻度が小さくなり結実率が下がったことから、訪花者の存在が花の向きを決める要因であると考えられる。
以上のことは、花の咲く向きが、訪花者の影響が強い場合は訪花者の誘引に有利な向きになり、そうでない場合は、雄成功・雌成功への影響の強さによって決まることを示唆している。