| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-179  (Poster presentation)

ノリウツギの装飾花の有無による繁殖成功の比較
Comparison of reproductive success between the inflorescences with and without sterile marginal flowers in Hydrangea paniculata

*福村太一, 中川弥智子(名大生命農)
*Taichi FUKUMURA, Michiko NAKAGAWA(Nagoya Univ.)

 アジサイ科アジサイ属の植物の多くでは小さな稔性花の周辺に、萼片が発達し雄蕊や雌蕊などの性的機能が退化した不稔性花(装飾花)をつける。装飾花は花のディスプレイを大きくし目立たせることで、送粉者の誘引や結果率の増加に寄与していることが報告されているが、装飾花の効果について実証されている種は少なく、更なる知見が必要である。本研究では装飾花をつけるノリウツギ(Hydrangea paniculata Siebold)を対象に、装飾花を除去した個体とそのまま残した個体の送粉者の訪花頻度および結果率を比較し、ノリウツギの装飾花が繁殖成功に与える効果について調べることを目的とした。
 名古屋大学大学院生命農学研究科付属フィールド科学教育研究支援センター稲武フィールドを調査地とし、2020年5月~10月に野外調査を行った。調査地内に生育しているノリウツギのうち、13個体の装飾花を人工的に除去した。また、装飾花除去個体の周囲の個体についても装飾花を除去した。装飾花除去個体ごとに稔性花数と果実数を記録して結果率を計算し、装飾花をそのまま残したコントロール個体(10個体)と比較した。また装飾花による誘引効果を調べるために、装飾花除去個体とコントロール個体に訪れる訪花昆虫の訪花頻度をそれぞれ3日間調査し、比較した。
 その結果、結果率(装飾花除去個体の平均39.5 %、コントロール個体の平均35.2 %)と訪花昆虫全体の訪花頻度および、送粉者であると推定された訪花昆虫(ハナノミダマシ科、コハナバチ科の二種)の訪花頻度について、装飾花の有無による差は見られなかった。ノリウツギの装飾花は送粉者の誘引や繁殖成功に寄与していないことが示唆されるが、2020年は全体的に開花量が少なく、訪花昆虫の少ない特殊な年であった可能性がある。単年の調査結果のみで装飾花の効果を断定することは難しく、今後も調査を継続する必要がある。


日本生態学会