| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-180 (Poster presentation)
異型花柱性の崩壊過程では,自動自家受粉に有利な等花柱型(柱頭と葯の高さが等しい)が生じることが一般的である。しかし,中には雌雄離熟(柱頭と葯が離れている)を示し,自動自家受粉を行わない個体が維持される例も知られている。カタバミ(Oxalis corniculata)は異型花柱性の祖先種を持つと考えられているが,現在国内では等花柱型に加え,雌雄離熟を示し,自動自家受粉を行わない長花柱型の2タイプが生育する。長花柱型が維持される要因は,一般に送粉者の訪花頻度や近交弱勢が関係していると考えられている。本研究ではカタバミの花の異型性が維持されるメカニズムの解明を目的とし,2タイプの花形態や地理的分布,送粉者の訪花頻度,近交弱勢の有無を検証した。また,2タイプの交雑可能性についても人工受粉実験によって検証した。
調査を行った23集団のうち,12集団が等花柱型の単独集団,11集団が2タイプの混生集団であった。昆虫の訪花頻度は集団間で違いが見られたものの,相対的に訪花頻度が低い集団でも長花柱型が生育していた。柱頭と葯の距離は,等花柱型の単独集団の方が混生集団より変異が小さい傾向が見られた。2タイプはいずれも他家受粉時と比べ,自家受粉時に種子生産量が低下することはなく,近交弱勢は検出されなかった。2タイプ間での交配や戻し交配では,純系の両親型とほぼ同等に種子が形成された。
以上の結果,送粉者の訪花は長花柱型が繁殖する上で十分だと考えられるが,等花柱型集団でも同程度の訪花頻度だった。よって等花柱型集団では,訪花頻度・近交弱勢以外の要因が長花柱型の生育を妨げていると考えられる。混生集団では,送粉者が2タイプの花間を移動する様子が観察されたことから,2タイプ間での交雑が生じていると考えられる。