| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-181 (Poster presentation)
花内における雄器官と雌器官の空間的な分離は雌雄離熟と呼ばれ、植物の繁殖において重要な形質の一つである。雌雄離熟は雄・雌器官の干渉の減少、雄器官同士の干渉の減少、訪花者との接触の促進に働くことが示唆されているが、これら3つを単一種の植物を用いて網羅的に検証した研究は少なく、雌雄離熟の意義は明確には分かっていない。そこで本研究では葯が花の中心から外側へ移動するような雌雄離熟運動をするニリンソウを用いて、花糸の角度を変える操作実験を行い、雄成功、雌成功および訪花者との接触の3つを解析し、雌雄離熟の意義を探る。
2020年にひもで花糸を固定して完全な雌雄離熟状態にする水平処理と完全な非雌雄離熟状態にする垂直処理、および無処理個体を用意し、それぞれの種子数、花内花粉数、雄・雌器官と訪花者の接触を調べた。その結果、種子数は水平処理で有意に無処理、垂直処理よりも多かったことから、雌雄離熟が雌成功に寄与している可能性が示唆されたが、柱頭との接触の有無は処理間で差が見られなかったため、雌雄離熟が雄-雌間の干渉の減少に寄与していることが示されなかった。この原因は今回測定出来なかった1訪花あたりの接触柱頭数が処理間で異なり種子数が増加している可能性があることが考えられる。花内花粉数は処理間で差が見られなかったため、雌雄離熟の度合いは雄成功には影響を与えないことが示唆された。一方で、接触葯数は水平処理、無処理、垂直処理の順で有意に増加しており、雌雄離熟の度合いと負の関係にあることが示された。
以上より、ニリンソウにおける雌雄離熟運動は雌成功の増加に寄与している一方で、訪花者と葯との接触には負の影響を与えることが示された。また、雌雄離熟状態における雌成功の増加と非雌雄離熟状態における訪花者との接触機会の増加のトレードオフによって、無処理のような雌雄離熟運動が維持されているのではないかと考えられる。