| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-185 (Poster presentation)
ナガミヒナゲシ(Papaver dubium)は約60年という短期間で日本全国に分布拡大した外来植物である。本種の移入や分布拡大は現在も続いていると考えられるため、生育適地予測により生育適地と分布決定に寄与する環境要因を明らかにする必要がある。これには日本全国の分布情報が必要であるため、ソーシャルメディアを介した市民科学データが活用できると考えられる。本研究では、市民科学データおよびGBIF・いきものログのデータ(標本・観察データ)により日本全国規模の分布調査を行い、この分布情報から生育適地モデルにより生育適地と分布決定に寄与する環境要因を明らかにした。また標本・観察データと比較した市民科学データの利用可能性を評価した。
市民科学データでは1,233件、標本・観察データでは521件の分布情報が収集され、これらのうち緯度・経度または字・大字まで特定できた891件および426件を生育適地予測に使用した。Maxentにより、市民科学モデルと調査・標本モデルを構築し、日本全国を対象に基準地域メッシュ単位で生育適地を予測した。環境変数として年間平均気温、年間降水量、年間最深積雪、標高、傾斜度、人間活動の影響度(市街地の面積などの合成変数)を選択した。分布決定に寄与する環境要因は、環境変数の寄与率によって評価した。
両モデルとも本州内陸部の都市部を中心に生育適地と予測した。環境変数の寄与率は、両モデルにおいて人間活動の影響度が80%以上と最も高く、生育適地と正の関係が見られた。したがって人間活動の影響度が分布決定に寄与しており、これが高い地域ほど侵入する可能性が高いことが示唆された。収集した分布情報において、標本・観察データは28都道府県を含んでいた一方で、市民科学データは41都道府県を含んでいた。また市民科学モデルは、標本・観察モデルが予測しなかった東北地方の日本海側を生育適地と予測した。以上から本種に対する市民科学データの利用可能性は高いと考えられる。