| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-188 (Poster presentation)
針葉樹は、温帯から熱帯では主に高標高で広葉樹と混交する。広葉樹林に針葉樹が加わると、広葉樹林よりも土地面積当たりの胸高断面積合計(ΣBA)が増加する現象(additive BA phenomenon, ABA現象)が報告されている。ΣBAは地上部現存量の指標である。高標高では一般に森林の成長速度は低下するため、高標高の針広混交林で地上部現存量が増加するのは謎である。地上部現存量は長年に渡る樹木の成長の蓄積であり、「平均滞留時間(バイオマスが保持されると予想される時間の長さ)」と「土地面積あたりの成長速度」に分けて考えられる。さらに、土地面積当たりの成長速度は「日射吸収率」と「吸収した日射量あたりの成長量(光利用効率)」に分けて考えられる。本研究はABA現象のメカニズムの解明を目的とし、それぞれの要因について調べた。屋久島の長期試験地5サイト(標高150-1550m)内に30m x 30mの調査対象地を設定し、胸高周囲長15㎝以上の全個体について地上部現存量、成長量、光獲得量を測定した。高標高サイトでは針葉樹(スギ、モミ、ツガ)が見られる。5つのサイト間ではABA現象が見られ、またΣBAに伴い地上部現存量も針広混交林で増加していることが確認された。針葉樹の平均滞留時間は広葉樹よりも2-3倍長く、サイト全体の平均滞留時間を押し上げていることがわかった。土地面積あたりの成長速度は、標高の上昇とともに大きく低下した。土地面積あたりの成長速度の違いは、日射吸収率ではなく光利用効率によって説明された。しかし、ABA効果が顕著に見られたプロットにおいて、同サイズの個体の光利用効率を比較すると針葉樹のほうが広葉樹よりも高かった。つまり、高標高では低温により光利用効率は落ちるが、針葉樹は広葉樹に比べて光利用効率が高い傾向があり、針葉樹の加入が成長速度の低下を緩和していることが分かった。以上より、針葉樹は広葉樹よりも長い平均滞留時間と高い光利用効率をもつため、ABA現象をもたらすと考えられた。