| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-198  (Poster presentation)

消雪傾度に沿った高山矮性低木の葉形質変異
Leaf trait variations of alpine dwarf shrubs along a snowmelt gradient

*峯村友都, 和田直也(富山大学)
*Yuto MINEMURA, Naoya WADA(Univ.Toyama)

 多雪地での長期にわたる消雪の傾度は、局所的に季節性の異なる環境を作り出し、植物はそれに沿うように「生育期間の短縮」を余儀なくされる。そこでは、落葉性の植物は個葉の光合成効率を高める応答が期待される一方、常緑性の植物では個葉の寿命を伸ばして長期間葉を維持するような応答が期待される(Kudo et al., 2001)。また、二次代謝物質であり被食防御の機能を有するタンニン類は、その構造に炭素を多く含むことから、炭素獲得制限下において、その生成量が減少することが予想される。これら植物が示す適応戦略や応答は、食物網を通じて植食者にも影響を与える可能性がある。本研究では、高山植物が消雪傾度に沿ってどのような応答を個葉レベルで示すのかを明らかにした上で、葉形質の変化が植食者にどのような影響を及ぼすのかについて検討を行った。
 本調査は、立山連峰・室堂山の北斜面、約4haの範囲内にて実施した。対象種は、落葉性低木1種(チングルマ)と常緑性低木3種(ガンコウラン、アオノツガザクラ、ハイマツ)である。過去のドローン空撮画像を解析し、調査地内における消雪傾度を可視化した。その消雪傾度マップを元に、葉の採取地点を選定した。実際の消雪日は調査地に埋没してある温度ロガーから求めた。2020年8月1日(初夏)と31日(晩夏)に葉を採取し、その後、葉の数や面積、重量、全炭素量(C)、全窒素量(N)、縮合型タンニン量を測定した。
 初夏に採取した葉は、4種とも消雪日の遅れに伴いCが減少したが、晩夏に採取した葉ではその傾向が弱くなった。一方、Nやタンニン量については、落葉種では予測を支持する傾向が見られたが、常緑種では種ごとに異なる応答を示した。その結果、餌資源としての時空間的な集中性が弱まり、植食者が季節を通じて質の高い資源を連続的に利用できる可能性が考えられた。


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