| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-200 (Poster presentation)
温帯に分布する一部の落葉樹は、冬季から春季にかけての日長の変化を認識し、冬芽の開芽時期を調節している。この日長認識は、冬芽内の幼葉が光を受容することで達成されると考えられてきた。しかし、森林内のように不均一な光環境では、個々の冬芽による局所的な光受容のみでは正確に日長を認識することは困難である。従って、林内に生育する樹種では、冬芽に加え枝などの器官も光受容に関与していると予測される。本研究では、生育する光環境が異なるミズキ、コミネカエデ、ヤマモミジ、ブナ、ハウチワカエデ、オオバクロモジ、イタヤカエデを対象に、1)生育する光環境の均一性の評価と、2)アルミホイルを用いた器官特異的な遮光実験を実施し、生育する光環境の均一性と日長認識に関与する光受容器官の関連を調査した。光環境の評価では、10㎝間隔の印をつけた1.5mの棒を地面と水平になるように樹冠部に設置し、各印上で光量子束度(PFD)を測定した。個体ごとにPFDの変動係数を算出し、各種が生育する光環境の均一性の指標とした。遮光実験では、切り枝に①冬芽のみを遮光、②枝のみを遮光、③冬芽も枝も全て遮光、④遮光をしないコントロールの4つの処理を施し、人工気象器内(16L8D, 20℃)に設置し、各処理の開芽率を比較した。その結果、生育する光環境の均一性と光受容器官に対応がみられた。ミズキとコミネカエデは他種と比べて均一な光環境に生育しており、冬芽のみで光を受容していた。一方、ハウチワカエデは、比較的不均一な光環境に生育しており、冬芽に加えて枝でも光を受容していることが明らかになった。また、開芽率をもとに算出した各樹種の光受容における枝への依存度は、PFDの変動係数と正の相関を示した。以上の結果をもとに、生育環境の違いから樹木の日長受容様式の多様性について考察する。