| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-201 (Poster presentation)
部分的菌従属植物は、光合成と菌の両方から炭素化合物を得るという独立栄養植物と菌従属栄養植物の中間的な性質を持つため、これを調べることで菌従属性の進化やその機構の解明につながると期待される。部分的菌従属植物は、周囲の環境や自身の生育状況によって菌への依存度を変化させている可能性があり、特に光合成が十分にできない環境で菌への依存度を上昇させるという可塑性をもつと考えられるが、その程度や仕組みは明らかでない。そこで、本研究ではラン科の混合栄養植物であるシュンラン(Cymbidium goeringii)に対して遮光を行い、遮光を行わなかった個体とトランスクリプトームを比較することで、光環境の変化に対する葉での遺伝子発現パターンの変動を調べ、シュンランの菌依存に可塑性があるかを検討した。シュンランの自生9個体に対し2か月間遮光を行い、遮光をしなかった9個体とともに発現変動解析および遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント解析を実施した。発現変動解析の結果、遮光群ではオーキシンやエチレンの輸送や受容に関係する遺伝子の発現が増加していた。またGO解析では、膜輸送や輸送活性に関わる遺伝子群で発現の上昇が見られた。これらの植物ホルモンは菌根共生に関わっていることが知られているほか、輸送が活発になったことは、遮光群で菌への依存度が上昇し、菌との栄養のやり取りが活発化したことを示唆している。また、非遮光群では光ストレスを緩和する効果がある遺伝子の発現が上昇しており、アブシジン酸不活性化に関係した遺伝子で発現量の減少が見られた。アブシジン酸は水ストレスと関係していることから、非遮光個体が乾燥や光のストレスを受けており、遮光によってこれらのストレスが軽減されたことを示唆する。これらの結果は、遮光条件下において部分的菌従属植物であるシュンランが菌依存性を増加させていることを示唆する。