| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-203 (Poster presentation)
大多数の陸上植物はアーバスキュラー菌根(AM)菌と共生しており、生態系の一次生産における菌根共生の重要性は広く認識されている。植物とAM菌の関係は、これまで主に温室や実験室内において、特定のAM菌を植物種に接種する操作実験を通じて明らかにされてきた。自然環境下では、AM菌が複数の植物種と共生する複雑な相互作用ネットワークが存在するが、多くの野生植物では、野外において実際にどのようなAM菌と共生しているのか、不明な点が多い。本研究では、北海道の夏緑樹林に生育する植物を対象に、次世代シーケンシングによるAM菌のDNAメタバーコーディング分析を行った。2つの林分に12のプロットを設け、計52種の植物から細根を採集した。各細根から抽出したDNAを用いて、リボソームRNA遺伝子の小サブユニット領域の塩基配列を決定し、既存のデータベースと照合することでAM菌を特定すると、93のOTUが得られた。5個体以上からデータが得られた植物28種を対象として統計解析を行ったところ、林冠木と共生するAM菌の多様性は、林床植物よりも有意に高かったが、その差は僅かであった。AM菌群集の組成は、植物種によって有意に異なっていただけでなく、植物の生育型によっても異なっていた。どの植物種もGlomerales(Glomus, Claroideoglomus)と高い頻度で共生し、特に林冠木でその傾向が強かったが、林床植物はArchaeosporales(Archaeospora, Ambispora)を中心とする一部のOTUとも共生していた。存在量の大きいGlomeralesは、生産力の高い林冠木から大量の有機炭素を受け取ることで、土壌中に広く菌糸体を発達させて大きな存在量を維持していると考えられた。また、林床植物がGlomeralesを林冠木と共有していることは、安定した栄養塩の獲得に寄与している可能性がある。