| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-209  (Poster presentation)

小笠原諸島における夏の極端な乾燥条件下での通水欠損障害の進行と木部の通水欠損耐性
The progress of hydraulic failure and xylem cavitation tolerance in the Bonin islands under extreme drought in summer.

*皆木寛司(京大・生態研), 河合清定(森林総合研究所), 中村友美(京大・生態研), 才木真太朗(森林総合研究所), 矢崎健一(森林総合研究所), 石田厚(京大・生態研)
*Kanji MINAGI(Kyoto Univ.), Kiyosada KAWAI(FFPRI), Tomomi NAKAMURA(Kyoto Univ.), Shin-Taro SAIKI(FFPRI), Kenichi YAZAKI(FFPRI), Atushi ISHIDA(Kyoto Univ.)

<p>近年、地球温暖化により、干ばつの頻度や強度の増加が予測されている。このような異常気象は樹木衰退の要因となり、乾燥強度の増加が樹木にもたらす影響評価は急務である。樹木の乾燥枯死メカニズムの主要な仮説として、糖欠乏仮説と通水欠損仮説がある。通水欠損仮説に基づくと、材密度がより高く、通水欠損耐性が高い樹種は、乾燥条件下においても光合成を行うことができ、乾燥に強い樹種であると予想される。そこで、2020年夏に厳しい乾燥が生じた小笠原諸島父島において、材密度と通水欠損耐性の異なる乾性低木林を構成する20樹種を対象に、2020年夏の厳しい乾燥と2019年夏の穏やかな乾燥の間で、樹木の生理状態を比較し、乾燥強度の増加が樹木にもたらす影響を評価した。
 その結果、前述した2つの仮説からの予測と反し、1)材密度の高い樹種が、穏やかな乾燥時に、より多くのデンプンを貯蔵していた。2)通水欠損耐性が高い樹種が、厳しい乾燥時に通水欠損を起こしていた。貯蔵糖は、乾燥時に枝木部の通水性の維持や葉の膨圧維持に利用される。1)の現象は、材密度のより高い樹種は、穏やかな乾燥時には糖を木部に貯蔵し、厳しい乾燥時には貯蔵糖を乾燥耐性に利用していると考えられた。一方、材密度のより低い樹種は、穏やかな乾燥時と厳しい乾燥時において、貯蔵糖量が少なく、得られた糖を貯蔵よりもむしろ成長に使っていることが示唆された。2)の現象は、通水欠損耐性の高いとされる材密度の高い樹種は、根系が浅いか、乾燥しやすい土壌に生育しているため土壌の水ポテンシャルが低下したことで乾燥の影響を大きく受けたと示唆された。また材密度の低い樹種は、通水欠損耐性の低さにより、通水欠損を起こしていた。この結果は、地球温暖化により、乾燥強度と頻度が増加した場合、材密度が低い樹種だけではなく、乾燥に強いとされた材密度と通水欠損耐性が高い樹種が、貯蔵糖枯渇により枯死する可能性が示唆された。  </p>


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