| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-210 (Poster presentation)
葉は葉身と葉柄に分けられ、それぞれ面積を広げて光合成を行う役割(ベネフィット)と葉身を支持し、水や養分、光合成産物を通導する役割(コスト)を担っている。葉身と葉柄の関係は主に形態データに基づいて力学的観点を考察しているものが多く、葉柄の力学的形質を直接測定した研究は少ない。また、葉柄の力学的性質と葉柄中の組織分率との関係は葉柄のバイオマス投資に反映されるため、葉のコスト−ベネフィットを考える上で重要だと考えられる。本研究は、常緑落葉性、単葉と複葉の違い(葉の形)に着目し、これらの葉形質の違いが葉柄の解剖学的特性と力学的形質の関係に与える影響を明らかにすることにより、葉柄構造の意義を評価することを目的とした。
本研究では暖温帯林林床に共存する25樹種を対象とし、(i)葉面積や葉柄長などの形態的項目(ii)葉柄の断面二次モーメントとヤング率(iii)葉柄内の組織ごとの細胞サイズと断面二次モーメントを調べた。その結果、葉柄の力学的制約に対して形態的項目と解剖学的特性は葉形態間で異なる応答を示すことが明らかになった。常緑樹は落葉樹よりも葉面積あたりの葉柄の断面二次モーメントが大きい傾向が見られた。これは、落葉樹に比べ常緑樹に比べ葉柄の維管束の外側にある組織が発達していることに起因していた。また、複葉の種は単葉の種よりも強い力学的制約を受けるにも関わらず、葉面積あたりの断面二次モーメントは小さく、その反面、曲げに対して効率的な断面構造を持っていたためヤング率は大きかった。葉柄の内部構造は葉柄への力学的制約との関連が強く見られた。このように葉柄の構造は葉身を支持するための力学的制約と関連しており、葉身と葉柄のバイオマスバランスを決める要因になっていることが明らかになった。その一方で、葉柄の構造は葉身の支持以外の要因の影響を受けている可能性が示唆された。