| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-212 (Poster presentation)
リョウブ(Clethra barbinervis)は日本各地に分布している落葉広葉樹である。重金属に対する様々な耐性機構を持ち、蛇紋岩地域などの高重金属土壌においてはニッケル(Ni)やコバルト(Co)などの重金属を組織中に集積する特性を持つことが知られている。しかし、重金属を集積する意義については不明である。本研究では、リョウブの重金属蓄積の生態的な意義を明らかにすることを目的とし、以下の3仮説について検証した。仮説1)集積した重金属によって食害から身を守っている、仮説2)重金属により防御のコストを下げて生長を改善している、仮説3)必須元素に付随して吸収している。
実験①(仮説1):広食性の草食昆虫であるシンジュサン(Samia Cynthia pryeri)の4齢幼虫に、NiとCoを吸収させたリョウブの葉とそうでない葉を同時に与え、採餌行動を観察した。実験②(仮説2,3):Ni, Coやマンガン(Mn), 亜鉛(Zn)などの重金属を50 µM以上添加した寒天培地でリョウブを23週間生育させ、根、茎、葉の元素濃度やバイオマス、細根の組織密度(RTD)、比根長(SRL)を測定した。
実験①では蛇紋岩土壌に自生している個体程度にNi, Coが蓄積されているリョウブ葉に対して、シンジュサン忌避行動は確認されなかった。よって、仮説1が当てはまる可能性は低いと考えられる。実験②では、重金属処理区でリョウブのバイオマスに差がなかったことから、仮説2も当てはまる可能性は低いと考えられる。一方、Ni, Co処理区のリョウブは葉と茎中のZn濃度が低下しており、細根の形態ではRTDが低く、SRLが増大していた。低RTD、高SRLの細根は栄養吸収効率が高いことから、培地からの吸収においてNi, CoがZnと競合した可能性が示唆された。したがって、リョウブの重金属集積に関しては仮説3が当てはまると考えられる。