| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-213 (Poster presentation)
一般に、植物の葉の物理化学性は、葉の被食率に影響する。葉の養分が多いほど、また縮合タンニン濃度が低いほど、被食率は高くなる傾向にある。また、葉の物理強度や厚さが大きくなるほど、被食率は低くなるとされている。こうした葉の物理化学性は、樹種間のみならず、葉の葉齢や着葉部位(樹冠上層の陽葉、または下層の陰葉)によっても大きく異なると考えられる。
熱帯潮間帯に成立するマングローブ林は、その厳しい生育環境のために、各森林の優占種数が1-2種程度と非常に少ない。よって、各樹種の葉形質が林分レベルの葉形質と被食量を規定する可能性がある。マングローブの葉被食率については多くの既存研究があるものの、それらは葉の化学性の樹種間差にのみ焦点を当ててきた。そのため、葉の物理性も含めた葉形質、葉齢や着葉部位と、被食率との関係性を調べた研究はない。
沖縄県西表島マングローブにおいて、葉の被食率と物理化学性の関係を調べた。海側から陸側にかけて分布する優占種8樹種を対象に、着葉位置(上層、下層)、葉齢(シュートの先端、中央、下端)ごとに、被食率、物理性(厚さ、LMA、パンチ荷重、引っ張り荷重)、化学性(炭素・窒素濃度、縮合タンニン量、クロロフィル含量を示すSPAD値)を調べた。
各樹種の平均被食率は、高いグループ(4-14%:ハマザクロ、サキシマスオウノキ)、低いグループ(0.3-3%:川沿いのオヒルギ、シマシラキ、シャリンバイ)、中程度のグループ(3-7%:ヒルギダマシ、ヤエヤマヒルギ、陸側のオヒルギ)に分けられる傾向にあった。上層葉のほうが下層よりも被食率が高い樹種が、数種見られた。また被食率が、葉齢が進んだ葉ほど高くなる樹種(ハマザクロ、ヤエヤマヒルギ、オヒルギ)と、逆に若い葉ほど高くなる樹種(サキシマスオウノキ、シャリンバイ)の両方がみられた。発表では、葉の物理化学性の影響についても考察する。