| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-216  (Poster presentation)

亜高山帯に生育するダケカンバとオオシラビソの環境適応ー葉の水分特性に着目してー
Adaptation to the growing environment of Betula ermanii and Abies mariesii distributed in subalpine zone -focused on leaf water relations-

*髙木優哉(京都大学), 鎌倉真依(京都大学), 東若菜(神戸大学), 牧田直樹(信州大学), 大島暢人(信州大学), Daniel EPRON(Kyoto Univ.), 小杉緑子(京都大学)
*Masaya TAKAGI(Kyoto Univ.), Mai KAMAKURA(Kyoto Univ.), Wakana AZUMA(Kobe Univ.), Naoki MAKITA(Shinshu Univ.), Nobuto OSHIMA(Shinshu Univ.), Daniel EPRON(Kyoto Univ.), Yoshiko KOSUGI(Kyoto Univ.)

 山岳地帯においては、標高の上昇に伴って樹木の生育環境が変化する。高標高での低温による葉内の水分の凍結や、浅い土壌や土壌凍結による利用可能な水分量の低下に対して、落葉樹と常緑樹ではその水分特性の適応性に違いがあると考えられる。そこで本研究では、長野県乗鞍岳の亜高山帯に優占する落葉広葉樹ダケカンバと常緑針葉樹オオシラビソを対象として、葉の水分特性をP-V曲線法によって測定し、3標高(1600、2000、2500m)間で比較することで、生育環境への適応を明らかにすることを目的とした。測定は、両樹種の葉の成熟度に沿って2020年8月から10月にかけて4回行った。
 ダケカンバでは、飽水時の浸透ポテンシャル(Ψssat)が低い葉ほど、萎れ点の水ポテンシャル(Ψwtlp)が低くなる傾向が見られた。また、細胞壁の弾力性(ΔRWCΨp)が高い葉ほど、萎れ点の相対含水率(RWCtlp)が低くなる傾向が見られた。しかし、これらの関係性において、季節や葉の成熟に伴う連続的な変化や標高間の有意な差は見られなかった。
 オオシラビソでは、葉の成熟によってΨssatが低下し、それに伴ってΨwtlpも低くなるという季節変化を示した。さらに10月には、1600、2000mと比較して2500mにおいてΨssat及びΨwtlpが有意に低かった。これは、浸透調節により耐凍性を高めることで、より低温な高標高に適応していると考えられる。またオズモメーターによる測定では、一年葉よりも特に当年葉において、季節に伴う溶質濃度の増加が大きかった。ΔRWCΨpは葉の成熟に伴って次第に低下する傾向が見られたが、それに加えて季節を通じて1600mと比較して2000、2500mで有意に高かった。またRWCtlpも1600mと比較して2000、2500mで有意に低かった。弾力性が高い葉ほど失水しても萎れにくく、高標高における浅い土壌や冬季の土壌凍結による利用可能な水分量の制限に適応していると考えられる。


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