| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-223  (Poster presentation)

撹乱履歴が異なる亜高山帯老齢林における実生の定着パターン
The establishment patterns of tree seedlings in late-successional subalpine forests with different disturbance legacies

*岩穴口智彬, 鈴木紅葉, 森章(横国大)
*Tomoaki IWAANAGUCHI, Kureha SUZUKI, Akira S MORI(YNU)

実生は、その後の森林を形成する重要な生育段階であり、実生の定着は樹木個体群の維持に直接的な影響を及ぼす。実生の定着には、種ごとに基質選好性が存在することが知られている。基質に違いをもたらす原因の一つに撹乱が挙げられる。火山噴火などの大規模な撹乱後の残留物(撹乱レガシー)は、実生の定着基質を改変するため、岩石や倒木などの撹乱レガシーにより実生の定着パターンは異なると考えられる。そこで本研究では、撹乱レガシーの有無による実生の定着パターンの違いを明らかにすることを目的とした。

調査地は、岐阜県の御嶽山県立自然公園内の亜高山帯老齢林とした。ここには、約1万年前の火山噴火に伴う土石流によって、撹乱レガシーの有無が異なる場所が存在する。それぞれの場所にある1 haの毎木調査プロットに、1 m2 のサブプロットを100個ずつ設置し、各サブプロット内における、実生個体の種名及びその定着基質、基質の被覆度を記録した。

その結果、基質の被覆度に撹乱レガシーのあるプロット(P1)で岩石が大きな割合を占め、撹乱レガシーのないプロット(PM)では土壌が大きな割合を占めていた。また、P1での実生の種組成は、PMに比べてモミ属とトウヒの割合が有意に少なく、コメツガと広葉樹の割合が優位に多かった。また、モミ属、トウヒ、広葉樹の各基質への定着パターンは、プロット間での差がみられなかった。例えば、モミ属および広葉樹は倒木上で有意に密度が低く、トウヒは倒木上で有意に密度が高かった。その一方で、コメツガは、PMで倒木に定着しにくく、P1では倒木上に有意に密に定着していた。

上述の撹乱レガシーの有無による各種の基質選好性の違いが実生の種組成に影響すると考えられた。岩石は、実生の定着基質として機能するだけでなく、倒木を誘発する可能性も考えられ、実生の定着パターンへの直接的ならびに間接的な撹乱レガシーの影響が示唆された。


日本生態学会